コラム 【公務員の段取り力1】経営感覚を今から身に付けよう 2021/09/30 12:00
静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

皆さんが公務員になった理由は何でしょうか。公務員試験を突破して合格するまでの過程で、例えば面接試験では試験官にどんなことを話しましたか。そこで伝えた熱い思いを、皆さんは今も持ち続けていますか?
公務員としてどう生きる? 私は何を目指して働いている? 日々の業務や課題に追われていると、ついこのことを忘れ、月日に流されてしまいます。かつて確かに持っていたはずの自分の理想や、将来の立ち姿を忘れます。いつかこうしたい、あれをやりたいという思いが、ともすれば薄れ、あるいは失われてしまいます。
行政にはこれからも、次々に多くのことが起こります。眼前の課題・問題への対応に引きずられてばかりいると、いつの間にか事案の洪水に押し流され、自分自身の将来像、例えば自分が課長や部長になったら何をやりたいか、どのようにやりたいか、あるいはもし首長の補佐役になったらどうするか、そこまで思いが及ばなくなります。しかし、あなたもいずれはその地位に就くことになるでしょう。そんな遠い先のことなんか、今は考えている余裕がないし、考える必要もない、目の前にある仕事を懸命にこなすだけ…。本当にそれでいいのでしょうか?
◇若いうちから少しずつ
厳しい時代にあって、地方行政のかじを取るのはとても難しいことです。首長の下、自治体経営陣として広く社会を見て、先を見て決める判断の志向を、そのポストに就いてから学ぶのでは遅すぎます。それは若いうちから、少しずつ、着々と身に付けるべきです。
では役所のかじ取りの感覚を、どう養うのか。それは今から、自分でできます。皆さんは日々仕事に打ち込んでおられますが、かじ取りの感覚を養うコツは、その「打ち込み方」にあります。仕事に没頭しても、埋没はしない。全身どっぷり仕事に漬かって溺れないことです。仕事を進めながら、これが具体的に人々にどう役立っているのか、この仕事の目的と社会的な意味は何なのか、時折、自分の背後や頭上から、冷静に見渡すことです。仕事全体を眺める習慣、職場の目的を自分なりに探る習慣が大切なのです。そしてその見地から、自分の今の仕事にもしもふに落ちない、あるいは非効率な点があるなら、自分で改良することです。
あなたの仕事は、あなた以外に担当者はいません。自分が専属であれば、自分で相当の改善ができるわけです。わが仕事と職場の目的や意味がつかめると、どう進めたらいいのか、どう変えたらいいのかが見えてきます。これが「大局」の視点です。これを長く、どこの部署に異動しても持ち続けることが、将来、あなたが行う行政経営のセンスと知見を養うことになります。
具体的に考えてみましょう。「企業誘致や農業振興のためにつくった補助制度は、本当に地域で喜ばれているのか、利用状況はどうか」「この啓発イベントは毎年開催する必要があるのか」「窓口手続きの申請書や届け出書でこんなに多くの項目を書かないと受け付けられないのか、添付書類はこんなに必要なのか」「現場で住民の声を聴いた記録書は、もっと簡潔で読みやすい統一様式にならないか」「庁内調査の内容を、もっと簡素にできないか」「こまごまとして読みづらい報告書の作成に長時間を費やしていないか」「長時間の打ち合わせや会議の中身を一字一句記録するため残業を続けていないか」…。眼前の仕事に没入し流され続けていると、気付かないことはたくさんあるでしょう。
◇自分で考え自分で変える
われわれ自治体職員が扱う業務の範囲は、人々の暮らしのほぼ全般に及んでいます。住民の福利増進と豊かなまちづくりは、職員一人ひとりの肩、その力量に懸かっています。職員一人ひとりが地域に勢いをつけていくのです。ですから、あなたはこのまちや地域をどうしたいのか、誰かに言われるのでなく、自分で答えなければなりません。そして住民サービスは、ストレートで効果的であるべきです。多忙に埋もれて流されるのでなく、自分で仕事の仕方を考え、必要なら自分で変える。これこそ真の行政改革であり、真の経営改革になります。将来、職位が付いた時、それが高いほど、その中身は具体的に、より大きな効果を伴って実行できます。経営は常に、社会のために現状をどう変えるかなのです。今の自分の仕事から、少しずつ始めましょう。真摯(しんし)にやり続けていれば、それを大きく形にするチャンスは、必ずあなたに巡って来ます。これは、私自身の経験則でもあります。
皆さんがやがて退職を迎え、さまざまな部署での活動を振り返った時、自分で考えて納得がいき、人々の役に立ったと確信が持てる仕事が幾つできたか。自分の「行政作品」が幾つ残せたか…。
この自身の内なる問いに、明瞭に答えられる。それが豊かな公務員人生だと思いますし、職員としての誇りある立ち姿だと思います。野望を持って、たくましくいこうではありませんか。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。