2022/令和4年
1127日 (

コラム 【いま公務の現場では1】働き方とやりがいを考える 2021/09/30 12:00

人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

人事院企画法制課長 植村隆生氏

 「職員を育てる」をテーマにコラムを担当する人事院の植村隆生です。若い公務員の皆さんや、就職先に公務員を考えている学生の皆さんが、キャリアプランを考える際の参考になる情報を提供したいと思います。なお、本コラムの内容は筆者個人の見解であり、筆書が所属する機関の見解を代表するものではありません。 初回のコラムは、国家公務員の中途離職者の増加が主題です。

◇増える若手キャリアの中途離職

 内閣人事局は昨年▽20代の総合職(いわゆるキャリア)職員の2019年度の自己都合退職者数は87人で6年前の21人の約4倍だった▽30歳未満の男性国家公務員の7人に1人が数年以内に離職を考えている―というデータを公表しました。総合職採用試験の申込者数の減少もあり、河野太郎行政改革・規制改革担当大臣が「霞が関は危機的な状況にある。働き方改革は急務だ」との認識を示しました。

 元厚生労働省キャリア執筆の「ブラック霞が関」という本が売れたり、NHKのWebサイト「霞が関のリアル」が注目を集めたりしていたため、不安を感じる国家公務員志望者もいたと思いますが、「霞が関に一体何が起きているのか」「国家的な危機ではないか」といったメディアの論調は、河野大臣発言から一気に広がったようです。

 国家公務員の勤務環境が社会的関心を集める中、今年の通常国会では総務省などの幹部の不祥事が糾弾された一方、残業問題など職場環境に関する質疑に多くの時間が割かれました。公務員の処遇は、選挙が近いと与野党双方から攻撃されるのが常ですが、珍しく(?)与野党の議員が一致して公務員の職場環境の改善を求めました。普段は公務員に厳しい自民党行政改革推進本部でも、3月の「公務員制度改革等に関するPT」で挨拶した棚橋泰文本部長(当時)が「公務員に優しい制度改革」を訴え、働き方改革を主なテーマに据えました。公明党の決算・行政監視部会も「各省職員の過剰残業や離職者の増加を防ぐため、ワークライフバランスを推進し、魅力ある職場環境に改善するとともに必要な増員を行う」ことを政府に促しました。

 人事院も8月の給与勧告で「長時間労働の是正」にかなりの紙幅を割きました。特に、大きな負担となっている国会対応業務の改善を「喫緊の課題である」と指摘し、「国会等に一層の御理解と御協力をお願い」しました。

 他方で素朴な疑問もあります。自己都合で霞が関を離れる若手キャリアは、本当に過剰残業や旧態依然たる働き方を忌避したのでしょうか。高い志を抱いて中央省庁の門を叩いたキャリアの多くは、就職活動で先輩や教授から霞が関の勤務実態を耳にしていたでしょう。それでも入省した以上、早期離職には相応の理由があると思うからです。

 キャリア採用者の中途離職が増えて問題化した時期は過去にもあります。主な理由は海外留学中か帰国後の民間への転職。「自分の市場価値が高いうちに転職する」のが主な動機で、当時はMBA(経営学修士)留学が悪者扱いされました。06年に「国家公務員の留学費用の償還に関する法律」が制定され、一時のブームは沈静化したものの、今でも留学直後の離職者は一定数いるようです。

◇志向と育成方針にミスマッチ

 先日、各府省で採用や人事を担当する職員と話をする機会がありましたので、一部を紹介します。

 働き方について「若手は自分のスケジュールを自分で管理できない他律的な働き方に拒否感を覚える」「最近の若手には一つのこと(専門分野)に集中したい志向がある。緊急時に他部署に動員させられることに嫌悪感を抱く」「政治との調整に追われる幹部を見て将来の自分に不安を抱き、気持ちがくじける職員がいる」といった話がありました。若い世代のキャリア志向やスペシャリスト志向と、ジェネラリスト育成など役所側の人事管理方針との間にミスマッチが生じているかもしれません。

 離職の動機では「トレンドがある。最近は業務の過酷さよりも個人の力を試してみたいからのようだ」「役所に不満があって積極的に転職するよりも、外資系企業などからヘッドハンティングされて気持ちがモヤモヤする中で、転職適齢期を過ぎる前に自分がより成長できる場を求める者がいる」という声が上がりました。「長時間労働に給与が見合わない」との指摘も出ましたが、長時間労働に耐えられずに離職するという話はありませんでした。

 河野大臣が語るように「課題は、長時間労働の是正とやりがいのある仕事ができるようにすることだ」と思います。同じ残業でも、現場に企画立案の裁量が与えられ、主体的、能動的に取り組めるとやりがいを感じますが、裁量の余地の少ない他律的、機械的な仕事ばかりではやりがいも成長実感も得られません。管理職員のマネジメント能力の向上や業務の合理化といった長時間労働是正のための取り組みは待ったなしです。さらに、各府省の人事管理や人材育成の在り方、政治主導の時代に公務員に期待される役割という段階まで踏み込んで議論する必要性を感じます。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【いま公務の現場では】

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