コラム 【公務員の段取り力2】公務員の段取り力とは? 2021/11/01 10:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
◇段取りで決まる仕事の良しあし
すべての仕事には、向き合い方のコツと上手な進め方、要領があります。日常事務から新規事業の立案、役所内外の調整・協議、ひいては組織の経営やまちづくりに至るまで、業務のすべての分野で要領よく、首尾よく課題解決や施策につなげていく職員の力を、私は「公務員の段取り力」と呼んでいます。段取り力は、仕事の不安を解消し、安定した業務の遂行を保証します。そればかりか、この力を付けることで、あなたの職場、さらには組織の中身までが大きく変わります。自治体経営の在り方さえ、より良いものに変えていけるのです。ですから、この力を若いうちからマスターすべきです。
例えばあなたが担当者として新たに事業を企画し、立案する時、最初にやるべき最も基本的な段取りがあります。それが「思考の段取り」です。
◇思考の段取り
公務には必ず、「なぜやるのか」「どうして必要なのか」という理由と目的があります。そこで、次のような思考の流れを作ります。

地域の現状に課題を感じた時、担当者としてはこうしたい、ああしたいという施策のさまざまなアイデアが、頭の中を駆け巡ります。事業案の構築は、自分の今の腕を試す「作品づくり」です。私は自分の立案した施策・事業を、わが「行政作品」と呼ぶことにしています。この作品づくりの作業は、施策の社会的な要請(行政目的)と、その事業を行うことで生まれる社会的な成果(行政効果)を整理することから始めます。これなしで、公共施策はあり得ないと思います。
◇押さえておくこと
自分の考える行政作品が、地域社会でどんな役割と効果を生み出せるか? 自分の思いや成果予測を整理して事業案を立てていくのですが、ここで押さえておくべき段取りがあります。それは、以下の一連の行動です。
① ことの本質をつかむ
地域で何が問題で、その解決に向けてあなた自身は何をしたいのか。これが、最もぶれてはいけない軸足です。庁内協議で上司や幹部に色々と尋ねられ、自分の施策の立ち位置、根拠や土台とする考え(思いの背骨)がグラグラするなら、その軸足がまだできていないのです。筋の通った説明ができないなら、企画として「持たない」「議論に耐えない」ものになります。ここは多少時間がかかっても、よく考えましょう。
② ターゲットをつかむ
主として誰に向けて放つ施策・事業なのか、なぜその事業を行うのかです。これは、今、地域で足りていないこと(行政需要)⇒具体的にサービスをしたい対象(施策・事業のターゲット)⇒その理由と目標(行政目的)という思考の流れで組み立てます。できるだけ単純・明解な整理の方が良く、あれこれ盛り込まないのがコツです。盛り込むほど事業は複雑になり、焦点がぼけて、見込む成果もぼけてきます。
③ 想定効果をつかむ
事業には必ず、目指す効果があります。それが具体的に何か、ということです。抽象的でなく、目指す社会の実像として、何がどうなるべきか、そのために役所が何をするのかを、理念だけでなく、具体的に書き出します。例えば空き家が減る、待機児童が減る、関心のある多くの人が集まる…。役所が公金を使うのですから、あなたの狙いと予測する効果を、誰にでも分かる言葉で簡明に示すのは、担当者の説明責任として当然だと思います。
④ まず目標の6割を目指す
これは立案段階では上司や経営陣に言いにくいことですが、実は事業成功の
ですから初めから成果目標を高く設定し過ぎると、いざ事業を始めても、間もなくイライラが増してそのうち焦り出し、精神的にも大きな負担になります。結果として、事業に臨む士気が下がり、動きが鈍って仕事の能率も落ちてきます。仕事には、頑張るのにも、頑張り方があります。「まずは60点!」を目指して事業を計画し、肩肘を張らずに進めていきましょう。
こうした基本点を押さえ、いつも念頭に置きながら、施策・事業の立案を進めていきます。その進め方や注意すべき点を、次回にお話しましょう。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。