2022/令和4年
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コラム 【いま公務の現場では2】人事評価制度を振り返る 2021/10/27 17:00

人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

人事院企画法制課長 植村隆生氏

◇人事管理の原則

 国家公務員にとって憲法とも言える国家公務員法に次の条文があります。

 「職員の採用後の任用、給与その他の人事管理は、職員の採用年次、合格した採用試験の種類…にとらわれてはならず…人事評価に基づいて適切に行われなければならない」(第27条の2)。

 これは人事管理の原則と呼ばれる重要なルールで、職員の人事管理は人事評価の結果に基づいて適切にしなければならず、採用された年次や採用試験の種類(総合職、一般職など)にとらわれてはいけないという原則を定めています。なお、人事管理には、任用(昇任、転任)や給与(昇格、昇給、勤勉手当)だけでなく、分限処分(降任、免職、休職、降給)や人材育成が含まれます。

◇人事評価制度の流れと概要

 国家公務員の人事管理の基盤となっている人事評価制度の歴史は意外と浅く、2007年6月の国家公務員法改正で導入されました。

 それまでは、俗に「キャリアシステム」と呼ばれる人事慣行がありました。具体的には、キャリアと呼ばれる昇進の早い少人数の旧国家Ⅰ種試験の採用者と、ノンキャリアと呼ばれるその他大勢の同Ⅱ種試験や同Ⅲ種試験の採用者の間で、人事管理が厳格に区別されていました。また、キャリア職員の中では採用年次ごとの人事管理が行われ、上位ポストへの昇進に当たり、優秀でも年次が後の後輩は先輩を追い越せないことが不文律のようになっていました。

 当時の公務員制度改革の議論の中で、こうした採用試験別・採用年次別の人事管理は身分制的・硬直的であると批判され、「人事評価制度等の導入により能力・実績に基づく人事管理の徹底を図る」ことを目的に07年に法律が改正されました。

 人事評価には能力評価と業績評価があります。いずれも評価は5段階で、職員は一定期間(能力は1年、業績は6カ月)ごとに、上位からS、A、B、C、Dのいずれかの評価(絶対評価)を受け、それが昇給やボーナス、昇任等に反映されます。

 能力評価では、役職ごとの標準職務遂行能力に照らして発揮した能力の程度が「通常」と認められた場合、業績評価では、業績目標に照らして役割を果たした程度が「通常」と認められた場合、「B」となります。通常よりも上の能力・業績を発揮したと評価されればAやS、通常よりも下と評価されればCやDになります。

◇人事評価制度の改善

 制度導入から十数年が経ち、今ではすっかり定着した人事評価制度ですが、2年前に自民党行政改革推進本部から政府に対し、次の厳しい指摘がありました。

 「現行人事評価の結果は、…上位評価に偏っている。…(国家公務員制度改革)基本法に定められている公務員制度改革の最も重要な理念である『能力・実績主義の徹底』が実現しているとは到底認められない」(「公務員制度改革の徹底」について)

 自民党が問題視したのは各府省の運用です。13年に政府が行った評価の分布調査結果では、各府省で5割を超える職員が「通常より上」のAで、残りの4割弱が「通常」であるBでした。CやDは非常に少なく、評価が上振れしているとの指摘でした。

 自民党の指摘も踏まえ、政府は20年7月に有識者検討会を設け、改めて各府省の運用状況を検証した上で議論し、人事評価制度を改善することにしました。検討会では「評価を細分化して厳密にやればやるほど、逆に納得できない職員が増えて、結果的にモチベーションを下げる」とか「人事評価をきちんとやろうとすればするほど、管理職が膨大な時間を割かれ、組織全体の業務効率や生産性を落とす」といった意見も出ましたが、最終報告では「人材育成・マネジメントを強化するための組織改革・育成ツールとして活用」「職員の能力・実績をきめ細かく的確に把握」などの改善のコンセプトが示され、具体的な方策が提案されました。政府はこれを受け、21年9月に人事評価の基準、方法を定める政令を改正するなど、見直しを鋭意進めています。主な改善点は次の通りです。

 ・ 評価の識別性を高めるため、S、A、Bの区分を4つに分け、評価区分を6段階に細分化

 ・ 曖昧な「『通常』より上か下か」など印象に基づく評価を廃し、各区分の具体的な行動例を明示して客観的に評価

 ・ 人材育成機能を強化するため、期首・期末の面談を改善指導の強化や中長期のキャリア形成支援の場として活用するほか、期中のコミュニケーションの質も向上

 ・ 管理職員のマネジメント能力の評価を充実

 一部は既に21年9月から施行されており、評価区分の細分化など多くは22年10月から施行される予定です。

◇重要な管理職員の役割

 21年6月の人事院年次報告書(公務員白書)に掲載された国家公務員の意識調査では、若手を中心に「人事評価の能力伸長への活用」や「キャリアに関する部下への助言」といった質問項目に否定的な(満足度が低い)傾向が見られました。今回の人事評価制度の見直しを、本来の目的である能力・実績主義の徹底や職員の能力伸長、モチベーションの向上にしっかりとつなげるためには、評価者である管理職員の役割が非常に重要です。管理職員が上司としてのマネジメント能力を向上させ、部下職員を公正かつ適正に評価するとともに、評価の結果や面談の場を部下の育成やキャリア形成の支援に着実に生かすことが求められます。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【いま公務の現場では】

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