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コラム 【地域のよさを伝える2】シティプロモーションの歴史を俯瞰(ふかん)する 2021/10/18 13:45

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔

 今回はシティプロモーションの歴史(経緯)を紹介します。

◇シティプロモーションに35年の歴史

 皆さんは「シティプロモーション」という語句がいつから使われたか分かりますか。某市(の首長)は2000年代後半に「初めて使った」と言っています。本当でしょうか。

 過去の新聞記事からシティプロモーションの記事の推移を示したのが、添付の図表1です(図表1は、あえて16年までとしています)。使用したのは、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞の4紙です。4紙を確認すると「シティセールス」は1980年代の半ばに登場しています。85年には福岡市のシティセールスの取り組みが記事となっています。

 一方で、シティプロモーションの記事は90年代後半に登場しています。99年には和歌山市の事例が紹介されています。

 これらの事実から言えるのは、シティプロモーション(シティセールスを含む)は、約35年の歴史があるということです。これだけ歴史があれば、実は成功事例も失敗事例もたくさんあります。これらをしっかり分析すれば、シティプロモーションは成功の軌道に乗せることができそうなものです。

 ただし、あくまでも4紙だけであり、他紙においては、私が調べた以前から、シティセールスやシティプロモーションを実施している可能性はあります。

◇シティプロモーションの背景は?

 図表1を確認してください。シティプロモーションの記事が98年前後から増加しつつあります。すなわち、同年前後がシティプロモーションの胎動期と言えそうです。そして2008年前後まで、その動きは続いていきます。ちなみに、私が地方自治体の現場に入り、シティプロモーションに取り組んだのも08年です。そして同年前後から、動きが急拡大していきます。この時期がシティプロモーションの発展期と言えそうです。

 繰り返しますが、1998年前後からシティプロモーションの記事が増えています。その理由は何だと思いますか。

 私は97年の景気悪化が一つの背景にあると考えています。同年は山一證券株式会社や株式会社北海道拓殖銀行が経営破綻しています。98年には日本経済はマイナス成長に陥りました。その結果、地方自治体の税収が大きく減少しています。

 「税収が大きく落ち込んだから…営業しよう!」という発想がシティプロモーションに向かわせたと考えています。ちなみに、バブル経済が崩壊したのは91年です。「バブル経済が崩壊して、すぐに不景気に陥った」と捉えている傾向があります。ところが実態は違います。図表2を確認すると、私たちの可処分所得は97年まで拡大しています。例えば、96年は、当時歌手として活躍していた安室奈美恵さんのアルバムが300万枚を超えていますし、巨大ディスコの「ジュリアナ東京」は、バブル経済崩壊の91年に開業しています(94年に閉店)。同じく「マハラジャ」は99年まで営業していました(その後2003年に復活)。バブル経済が崩壊した後も、税収は増加していました。

 ところが97年を契機に景気が悪化していきます。それに伴い税収が減少する傾向にあります。そこでシティプロモーション(営業)の出番となった…というのが私の理解です。

 次に2008年を考えます。9月にはリーマン・ショックが起きています。米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻したことにより、世界的金融危機が発生しました。日本も影響を受け企業の倒産が増加しました。

 地方自治体にとっては、法人住民税が大きく減少することになります。同時に08年は「人口減少元年」と称されています。この年から継続的に人口が減ることになりました。人口が減っていけば、個人住民税も逓減していくことを意味します。「税収が継続的に減少していくから…営業だ!」という考えがシティプロモーションに結実したと捉えています。

 私は、シティプロモーションが進む一つの背景に税収の減少があると考えています。自治体運営の持続性を担保するために「プロモーション活動(営業活動)することで税収の減少を抑えよう」という発想があるのではないでしょうか。

 もちろん、それだけがシティプロモーションを進める理由とは言えないと思います。しかし「税収の確保のためにシティプロモーションに取り組む」ことが、当時の大きな要因と捉えています(本連載で言及しますが、今は別の要因でシティプロモーションに向かう傾向が強まっています)。

◇税収確保の手段は多様

 上記のように、過去のシティプロモーションを概観すると、「税収を確保したい」という思想があると、私は考えています。

 ところが、よく考えれば分かりますが、シティプロモーションだけで税収が維持できるわけではありません。税収を守る手段は多々あります。シティプロモーションだけに躍起になるのはおかしいことです。

 税収ではなく税外収入を増やすことで、歳入全体の増加も考えられます。さらには歳出削減もできるでしょう。歳入拡大の観点から、「シティプロモーションが絶対いい」わけではありません。注意する必要があるでしょう。

 そうは言っても、私はシティプロモーションに多くの可能性を感じています。特に地方自治体が採用することで自治体運営にイノベーションが起こります。このイノベーションの意義や中身については、本連載で紹介したいと思います。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

添付資料

【地域のよさを伝える】

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