2022/令和4年
1127日 (

コラム 【地域のよさを伝える3】シティプロモーション・バブルの崩壊 2021/11/05 10:00

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔

 前回はシティプロモーションの経緯を紹介しました。過去の新聞記事から、シティプロモーションが進む背景を言及しました。今回は、近年の動向を考えます。

◇シティプロモーション・バブルの崩壊

 前回は朝日、産経、毎日、読売の新聞4紙におけるシティプロモーションの記事の推移を確認しました。その際、2016年までしか載せませんでした。

 添付の図表は17年以降の記事を加えています。近年、数が低下しつつある状況が見て取れます。シティプロモーションが当たり前になったので、記事にしにくくなっている…というより、実態は「シティプロモーションのバブルがはじけた」が正しいように思います。

 本連載第1回で示しましたが、Yahoo! JAPANのポータルサイトで「シティプロモーション」と検索すると、約16,000,000件も抽出されます。これだけシティプロモーションがあると、なかなか成果を導出するのは至難の業です。成果が出ないシティプロモーションがあふれ、距離を置くケースが増えつつあります。それがバブルの崩壊です。

 私がシティプロモーションに取り組み始めた08年当時は、一部の地方自治体しかシティプロモーションを実施していませんでした。先進事例は少なく、視察先を探すのに苦労した記憶があります。

 ところが、今は「どこでもシティプロモーション」です。これだけあれば、玉石混交となります。玉石混交とは「良いものと悪いもの、優れたものと劣ったものが入り混じっていること」という意味です。良いプロモーションと悪いプロモーションが半分ずつあるのではなく、実態は一部の良く、大多数は悪いという状況です。

 この世界にも「悪貨は良貨を駆逐する」ということが言えます。良いプロモーションは、悪いプロモーションに影響を受けています。その結果、良いプロモーションが、ますます少なくなっています。

 私はシティプロモーションに価値を見出しています。そのため現在の状況を目の当たりにして、いろいろな思いがあります。

 これか数回にわたり、悪い(悪くなる)理由を検討していきます。

◇魂を他社(他者)に依存

 シティプロモーションを進める際、新聞や中づり広告、インターネット交流サイト(SNS)など多くの媒体を活用します。また、対象者の目を引くキャッチコピー(ブランドメッセージ)を検討します。ことわざに「餅は餅屋」があるように、地方自治体はこれらの分野が不得意ですから、それぞれの専門家に任せるのが良いと思います。

 ところが、シティプロモーションの行政計画の策定を丸ごと、他社(他者)に依存してしまうケースが多くあります。これには賛否両論あると思います。その中で私は「反対」の立場を取っています。

 今日、シティプロモーションを行政計画化する傾向が強くあります。しかし、策定した計画は自前ではなく、民間シンクタンクやコンサルタント会社に丸ごと委託することがあります。このような場合は「仏作って魂入れず」の状態になりかねません。魂を他社(他者)に委ねている状態です。

 確かに、地方自治体の現場は、増える仕事と減る職員のギャップに押しつぶされそうになっており、計画を策定する余力がないことは分かります。そうは言っても、魂を他社(他者)に依存するのはどうかと思います。他社(他者)が作った、ありきたりな、どこでも通用する計画に、愛着が湧くのでしょうか。

 特にシティプロモーションは、自分たちの「まち」を売り込んでいく取り組みです。自分たちのまちを売り込むのに、全く関係のない第三者が作るのは、何となく「おかしい」と私は感じています(もちろん「第三者が作るからこそ客観的にいいモノができる」という反論があるとは思います)。

 以上の理由から、私が関わった地方自治体の多くは、シティプロモーションの計画を自前で作るようにしてきました(ちなみに「100%がそうだ」とは言いません。大人の事情から他社に依存したケースもあります)。

 私の経験則になりますが、自前で策定した方が職員の愛着が湧きます。かつ、より自分事として捉えるようです。担当職員と私が一緒に汗をかいて策定した計画は、いい思い出です。

◇政策が公害化する

 話は変わりますが、「増える仕事と減る職員のギャップ」に関して一言記しておきます。私は「政策公害」という概念を提起しています。政策公害とは「自治体の多すぎる政策づくりと政策実施によって、自治体職員や地域住民に、外部不経済をもたらす」ことです。

 政策がありすぎて、多くの計画策定を他社に委託することになります。あまり良い傾向とは思えません。

 ちなみに、政策公害の定義にある外部不経済とは、自治体職員の療養休暇の増加や自治体職員のモチベーションの低下、職員の早期退職、当初意図した政策効果が現れないなど多々あります。政策が多すぎるため、住民ニーズが的確につかめないと言うこともできるでしょう。これらの外部不経済は自治体の健全性を損なう「歪み」となりつつあります。

 新聞報道によれば、神奈川県座間市は一般行政職員の定数を40人増やす方針を決めたそうです。21年度第3回定例会に関連条例の改正案を提出しました。定数の引き上げは約30年ぶりとのことです(その後、否決となりました)。

 近年、権限移譲により仕事量の増加、さらには新型コロナウイルス感染症の対応により、地方自治の現場は限界に近づいているように感じます。職員を減らすばかりではなく、そろそろ増やすことも考えたらどうでしょうか。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

添付資料

【地域のよさを伝える】

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