コラム 【公務員の段取り力3】事業立案の段取りと心構え 2021/11/29 19:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
◇段取り力で、仕事を明るく
すべての仕事は段取り次第。これが良ければ、仲間も関係者も安心して付いて来ます。上司から適時にアドバイスも得られ、関わる班員、スタッフの一体感も増します。段取りで職場の空気も明るく、前向きに変えていくことができるのです。前回お話しした基本点を基に、段取りの進め方や注意点などを述べましょう。
◇施策・事業を立案する際の留意点は?
あなたが新規事業の企画を立てて段取りを進める際の留意点、ポイントとは何でしょうか? 仕事の進め方に滞りや手戻りがないためのヒントやコツとしては、次のことが挙げられます。
●初めは必ず、自分一人で考える。それからチーム(係、班)で考える。
●企画立案のヒントは、日常の暮らしのごく身近な所にある。
●当たり前と思っていても、まだやっていないことがある(それこそが新しい施策になる!)。
●初めは自分の好み、好き嫌いで企画していい(その方が楽しくて思考も広がる!)。ただし、具体的にできることを考える(「企画」と「夢想」とは違う!)。
●考えに詰まったらいったん立ち止まり、冷静に情報を集める。データ集めに奔走はせず、公平に、慎重に選ぶ(データは仕事をしない!自分に都合のいい材料だけを集めない)。
●他県・他市町村の施策状況を、一通りは把握する(類似の事業は参考になる)。
●枝葉末節はさっさと捨てる(情報に基づく細かな場合分けや分析より、自分が本当は何をしたいのかを中軸に置いて考える)。
●具体的に何をすることで(事業メニュー)、どうなるか(成果と社会的な効果)を自分で予測し、できるだけ視覚的にイメージする。
●当面の目標として、最低または最初の到達点を決めておく(60点で構わない)。
●事業のネーミングは簡潔に分かりやすく!(漢字と外来語は要注意。行政用語は厳禁。キャッチコピー、キャッチフレーズは必ず添える)。
●外部委託、コンサルタントの活用は慎重に(立案からの丸投げはダメ。依頼する場合も、その範囲は相手方と十分に協議して決める)。
これらのポイントを押さえ、施策・事業の成果の全体像を、できるだけ具体的に自分でイメージした上で、骨組みの立案と実施する中身を紡ぎ上げていきます。
◇長く抱え込まず、自分から動く
自分のコンセプトと事業素案がおおよそ整理できたら、一人で抱え込まずに、まず動き出すことです。段取りとは、黙って座って考えるのではなく、誰かと語り、動きながら組んでいくもの。仕事の流れをつくるのは、あなた自身の行動からです。一人で資料づくりに長々時間を費やし、仕事をしているような気になっていませんか? 先輩、上司への相談は、早いほうがいいでしょう。それで周囲も上司も同調し、連動するようになれば、早く助言がもらえて次の展開が見えてきます。事業のさらに具体的なイメージが浮かび、メニューと成果目標がはっきりしてきます。「働」という字は和製漢字ですが、まさに「人」が「動」くと書きます。まず動け、それが働くということだと思います。
よく聞くのは、施策の公平・公正さや地域的なバランス、対象者の年齢階層など、さまざまな意味で均衡の取れた施策を模索し、事業化する積み上げの作業に時間がかかるという話です。それが役所の基本の段取りだと思っている職員が多いのです。しかし、地方行政の要(かなめ)は、試行であり実践です。行政は、とりあえず具体的にやってみる方が、ずっと価値が大きいのです。論より実践 ! です。まずやってみるのも段取りだという職業感覚が大事でしょう。
例えば、地域を指定したモデル事業の実施です。新規事業の効果を確かめるため、事業の中身を試行の形でまず公表し、関心を持った地域、地区に手を挙げてもらい、その中から指名して実践します。これなら大きな予算はかかりません。うまく稼働しなかったり住民の評判がいま一つだったりしたら、その原因・理由を地域や関係者から聴き出して、改良または廃止を検討します。もし地区で一定の成果や良い評価が出たなら、対象地区を拡大して実施します。
都道府県事業なら、市町村の関心や意欲の度合いなどを見て、やる気のある市町村をモデル地域に指定します。市町村事業なら、地域の結束が固く、協力してくれる住民が多い地区で、自治会、町内会などと話し合い、優先的に試行します。これが、スピードと勢いのある施策の段取りです。地域内のどこでも同じような事業がなされ、エリア・バランスが税の公平な還元の基本だと考える時代は、とっくに終わりました。住民の方々としても、常に行政に関心を寄せ、自ら行政に関わり、役所から情報を得ながら地域の振興、福利を模索する時代になっていると思います。
次回はさらに具体的な事業例を見ながら、仕事の段取りのコツやポイントについて述べていきましょう。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。