2022/令和4年
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コラム 【地域のよさを伝える4】「メインターゲット」という視点の重要性 2021/12/03 17:00

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔

 シティプロモーションを進めて成果を出している地方自治体があります。「成果を出している」とは「設定した政策目標を達成している」ということです。

 今回から数回は、シティプロモーションを成功させる視点を紹介します。これから言及する内容に「そんなことは当たり前だ」と思う読者が多いでしょう。しかし、「当たり前のことができていない」現状があります。当たり前のことができないため、シティプロモーションが成功の軌道に乗らないのです。

◇「眠いプロモーション」に注意

 以前、筆者はある市のシティプロモーション担当者と意見交換しました。担当者は熱心に地域(市)のアピールをします。「おいしい地元料理があります」「海の幸や山の幸に恵まれています」「教科書に載るくらい歴史的資源も多数あります」「気候も温暖で、とても住みやすい地域です」「もちろん、いい人ばかりです」など次から次へと、自治体の特長を訴えてきます。

 「シティプロモーションを成功させたい」という熱い思いは伝わってきました。シティプロモーションに限らず、自治体職員の「熱い思い」は絶対に必要です。自らの職場や対象とする地域が「好き」でなくては、政策の実効性は担保されないと考えるからです。 ただ、シティプロモーションの場合、冷静に捉える必要もあります。担当者のたくさんの「ここがいい!」を総括(総合)すると、「人、自然、歴史に恵まれるやさしいまち」というキャッチフレーズ(ブランドメッセージ)になります。

 皆さんに質問です。この「人、自然、歴史に恵まれるやさしいまち」というキャッチフレーズを聞いて、「その場所に行ってみたい」や「その地域に住んでみたい」と思う人は、どれくらいいるでしょうか。筆者は「ほとんどいない」と推測します。

 ここで例示した「人、自然、歴史に恵まれるやさしいまち」のようなキャッチフレーズを「眠いプロモーション」と言います。

 眠いとは「抽象的で、他の地域(自治体)にも転用できる」という意味です。「あれもこれも」という発想は「総花的」です。確かに総花的は、決して悪いことではありません。しかしシティプロモーションにおいては、「総花的=魅力がない」を意味します。 そもそもキャッチフレーズの意味は「広告や宣伝で、感覚に訴え、強い印象を与えるように工夫された短い文句」です。何よりも「強い印象を与える」ことが大切です。総花的では、強い印象を与えることはできません。

 眠いプロモーションと真逆の概念は「尖ったプロモーション」です。「尖った」とは「訴求効果のある」という意味です。訴求とは「宣伝・広告などによって買い手の欲求に働き掛けること」や「読者・視聴者など限定された対象に効果的に訴える力」と定義できます。

 みなさんの自治体のシティプロモーションは尖っていますか(既存の多くのシティプロモーションは眠いものばかりです)。

◇メインターゲットの決定

 「そうか尖ればいいのか…。それならば『日本一不愛想な市役所』にしよう!」と、やみくもに尖ればいいわけではありません。「日本一不愛想な市役所」は間違いなく尖っています。しかし「独りよがり」の尖ったプロモーションです。民間企業の場合、独りよがりの商品やサービスの提供ばかりでは、倒産へ突き進んでいくことになります。

 重要なのは①メインターゲットを明確に②メインターゲットに刺さるように――尖っていくことです(さらに言うと、メインターゲットの行動変容を促すことが重要です)。

 ところが、せっかく尖っているのに、メインターゲット志向ではないため、誰を狙っているのか分からず、空回りするシティプロモーションがあります。もったいないことです。

 どうも自治体はメインターゲットを決定することが苦手なようです。これに関連して、筆者は「公平性の呪縛」という概念を使っています。地方自治の現場に行くと、何事も「公平性」が指摘されます。シティプロモーションも公平性を基本にすると、すべてを対象に満遍なく実施します。それが総花的になる一要因です。

 公平性を否定する意図はありません。ただし、あまりにも公平性に縛られているような気がします。この状態を「公平性の呪縛」と称しています。

 職員は「自治体の事業は公平性が基調だから…」と言います。「その公平性の法的根拠はどこにありますか」と聞くと、明快に答えてくるケースはほとんどありません。地方自治法に「公平に実施しなさい」とは、どこにも書いてありません(地方自治法に「公平」という言葉は24回登場します。すべて「公平委員会」です)。

 現在、子どもの医療費の補助に関して、多くの自治体が所得制限を設けています。もし「公平性」が基本であるならば、本当は所得制限を設けず、すべての住民に実施するべきでしょう。この事業は公平の観点からではおかしいことになってしまいます(極論と思いますが、問題提起の意味を込めて言及しました)。

 自治体の事業で、実は不公平な取り組みはたくさんあります。ただ、シティプロモーションに「公平性の観点からおかしい」などと言うのは、「自分勝手な公平理論」を振りかざす職員です。これは「都合のいい公平論者」とも言えるでしょう。

 だからと言って、不公平にするべきだと言っているわけではありません。対象者をすべてにしつつ「メイン」を決めるのがシティプロモーションです。筆者は「メインターゲット」と称しています。

 シティプロモーションを成功させたいのならば、「メインターゲット」という視点が重要になります。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【地域のよさを伝える】

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