2022/令和4年
124日 (

コラム 【ナッジ入門編5】実践2:チラシ改善で申込率向上 2022/01/17 10:00

岡山県版ナッジ・ユニット(執筆代表・山中慶子)

岡山県版ナッジ・ユニット(後列中央が山中氏)

 行政現場でナッジを活用した事例について、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は岡山県のユニットがチラシを改善した例を取り上げます。ナッジの普及を目指す特定非営利活動法人PolicyGarageが執筆を依頼しました。

 岡山県は、県の事業に「ナッジ」を取り入れることを目指し、「岡山県版ナッジ・ユニット」を2019年11月に政策推進課に設置しました。近年、さまざまな地方公共団体でナッジユニットが設立されていますが、岡山県のユニットは、有志の活動ではなく、政策推進課の業務として位置付けており、政策推進課の職員5人で構成しています。また、知事がナッジの効果に強く期待していることも特徴です。

 ユニットの主な活動内容としては、ナッジに対する庁内の理解促進、事業へのナッジ活用の支援、ナッジを活用した事業の効果検証や検証結果の発信、他の地方公共団体をはじめとしたナッジ関係部局との連携などです。19年の設置以降、20年度までに46件の相談を受けており、庁内だけでなく、市町村からの相談にも対応しています。

 主な相談は「イベントの参加者を増やしたい」「通知やチラシにナッジを取り入れたい」など具体的な内容から、「ナッジの活用に興味がある」など抽象的なものまで、多岐にわたります。すべての相談にナッジを活用できるわけではありませんが、まずは、相談者から聞き取りし、「望ましい行動を促したい相手は誰か?」「課題になっている行動は何か?」など、ターゲットの絞り込みや行動プロセスの整理を相談者と一緒に考えることから始めます。

図1

 例えば、チラシを作成する場合、作り手は、チラシの受け手が文章を全部読んだ上で、全て理解してくれると思い込み、伝えたいメッセージをどんどん詰め込んでしまいがちです。その結果、情報量が膨大になり、かえって読みにくくなってしまうことが多々あります。このようなチラシについては「受け手にどのような行動を取ってもらいたいか」を意識し、文字数の削減、イラストや表の活用などにより、シンプルにしてはどうかとアドバイスをしています。

 これまでの取り組みの中で、成功事例についてご紹介します。

 ユニット設置直後、保健所の担当者から「事業者向けの食品安全衛生管理システム(HACCP)導入支援研修会を開催しているが、参加申し込みが少ないので、案内方法の改善についてアドバイスをもらえないか」と相談がありました。

 従来は、チラシの表面に研修会の案内、裏面に参加申込書(図1)を記載し、HACCP制度の解説を同封した上で、封筒で郵送していました。ここでの受け手の行動プロセスを分解すると、

 1 封筒を開ける

 2 チラシを見る

 3 チラシの内容を理解する

 4 参加に向けてスケジュール調整をする

 5 申込書に必要事項を記入してFAXまたは電話で申し込む

 6 研修会に参加する

図2ー1

 となります。各行動プロセスについて、相談者と一つずつ検討していく中で、「1 封筒を開ける」から「3 チラシの内容を理解する」までの行動プロセスにボトルネック(課題)があるのではないかと推測し、改善案を考えました。

 改善案では、受け手に見てもらうための工夫として、封筒ではなく、A4サイズのハガキで郵送する方法に変更し、内容についても極力文字数を減らし、シンプルにしました。また、義務感を強調するため、岡山県章マークを使用するとともに、メリット・デメリットの記載など、ナッジを意識したメッセージを盛り込みました(図2ー1、2)。

図2-2

 図2-2右欄の「改善ポイント」は、図2-1のA~Fに対応しています。

 この改善案の有効性を検証するため、研修会の案内を送る対象施設(141件)について▽従来の案内を送る群(71件)▽改善(ナッジ)後の案内を送る群(70件。割り付け後の廃業で1施設脱落)――の2群に無作為に振り分けて、申込率の差を確かめるランダム化比較試験をしました。検証の結果、申込率は、従来群が21.1%、ナッジ群が36.2%と、ナッジ群の方が約15.1ポイント高くなり、統計的に有意差が出るほど、高い効果が得られました(図3)。この結果を踏まえ、改善後の案内は県内の他の保健所に拡大して実施することとなりました。

図3

 今回の事例では、すべてを改善後の案内に変えるのではなく、半分だけ変えたことにより、比較的簡単に効果検証ができました。ナッジを活用した改善をするのも大切ですが、さらに一歩踏み込んで、その効果を検証して試行錯誤することもパフォーマンスの向上にとって重要であり、担当者、相談者にとっても、大きなやりがいにつながると思います。

 最近では、回覧で回ってくるチラシや案内文を見て、「ここを変えれば、もっと相手方に伝わるのに!」など、ナッジの観点での会話がユニット内で増えました。「ナッジを事業に取り入れるってどうすればいいのか?」と疑問を持つ方も多いと思いますが、一度、経験してみると、「こういうところに、こんな感じでナッジを取り入れればいいのかも!」と身近に感じるかもしれません。皆さんが普段関わっている身近なものから少しずつ活用してみてはいかがでしょうか?(了)

◇岡山県版ナッジ・ユニットのプロフィル
2019年11月に総合政策局政策推進課に設置。政策推進課の職員5人で構成。県庁内をはじめ、市町村からの相談にも対応中。

PolicyGarageへのリンク
→ https://policygarage.or.jp

【ナッジ入門編】

同一カテゴリー記事

  • 【公務員の段取り力12】マネジメントは自らの手で 2022/12/02 11:00

    これまでさまざまな視点やケースを基に、公務員の仕事や日常の段取りについて述べてきました。今回で連載を一区切りにします。まとめとして私がお伝えしたいのは「自分の職業人生は自分でつくり、自分がマネジメントする」ということです。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【地方議員の視点10】華やかで意義のある場 2022/11/22 11:00

     議会と言えば、議員が演台で発言するイメージを持つ方も多いと思います。地方議会はそれぞれでルールが異なりますが、議員はさまざまな機会に演台で発言しており、甲府市議会では、議員提出議案の説明や議案に対する討論、委員長報告などの際に登壇します。そして、議員が一番多く演台に立つのは、市政一般質問の時です。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【いま公務の現場では10】公務員と政治の関係 2022/11/09 11:00

     この連載も10回目を迎えましたので、取りあえず一区切りにしようと思います。今回は、公務員と政治の関係がテーマです。…霞が関で実際に働いている立場から、思うところを記したいと思います。人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

  • 【公務員の段取り力11】見せよう、そして語ろう 2022/10/28 11:00

     あなたはプロとして、自分の仕事を周囲にオープンにしていますか? 成果だけではなく途中経過も、仲間や上司、そして住民に随時報告し、あなたの仕事を「見せる」ことは重要です。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【地方議員の視点9】普段は何やってるの? 2022/10/17 11:00

     「議員って、普段は何をしているの?」「私服だけど、きょうは休みなの?」「年内はいつまで仕事なの?」…。これらの言葉は、議員になって市民の皆さんから聞かれることが多い質問ベストスリーです。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【ナッジ入門編10】実践7:バイアスを考える 2022/10/04 17:00

     行政現場でナッジを活用したケースを、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は、岡山県真庭市の環境関連の試みです。…真庭市は職員有志でナッジを学び、情報交換をしています。今回は、環境課で取り組んだナッジの事例を紹介します。真庭市産業観光部農業振興課 藤田浩史

  • 【地域のよさを伝える10】営業マインドを持って 2022/09/22 11:00

     本連載は10回目を迎えました。ここで一区切りにしたいと思います。次回から、シティプロモーション自治体等連絡協議会が実施した「全国シティプロモーション実態調査」を紹介します。…今回は記念すべき10回目なので、基本的な注意点に言及します。関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【いま公務の現場では9】人事院の報告の背景 2022/09/12 11:00

     国の内外を問わず社会が急速に変化し、行政が抱える課題は複雑化・高度化しています。その中で、政府が国民に質の高い行政サービスを提供するためには、公務組織が国民本位の能率的で活力のあるサステナブル(持続可能)な組織であり続けなければなりません。人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

  • 【地方議員の視点8】価値観変えた名山指定 2022/09/01 11:00

     住民の価値観を変えることも、議会の役割の一つでしょう。議会で課題として取り上げ、議論を重ねる中でそれに対する新たな見方や捉え方を住民に提示し、新たな価値として受け止めてもらえば、生活を豊かにしていくきっかけになると考えます。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【地域のよさを伝える9】セグメント化の意識を 2022/08/19 11:00

     実は、地方自治体のシティプロモーションの大半は「可もない不可もないプロモーション」です。担当者は「今は成果が出ていないが、あと数年頑張れば出るだろう」という思いで取り組みを続けます。これが「可もない不可もないプロモーション」です。…今回はシティプロモーションの重要な概念(用語)である「セグメント化」(セグメンテーション)を紹介します。 関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔