2022/令和4年
1127日 (

コラム 【地域のよさを伝える5】「誰に」伝えるのか 2022/01/01 00:00

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔

 本連載のテーマは「地域のよさを伝える」です。地域を伝えるためには、当たり前ですが「誰に伝えるのか」の「誰に」を意識することが大事です。「誰に」は、前回指摘した「メインターゲット」の決定ということです。今回もシティプロモーションの成果を導出するため、メインターゲットの重要性を指摘します。

◇「誰に」伝えるか

 地方自治体は「誰に」と特定することは苦手のようです。前回は「公平性の呪縛」という表現を用いました。やや極論だったかもしれません。確かに、地方公務員法第13条には「平等取扱いの原則」があります。同規定は二つの意味を持っています。

 第一に、首長が職員を平等に取り扱うということです。首長が、特定の職員を恣意(しい)的に早く昇進させたり、意図的に懲戒処分を下したりするのは、「平等取扱いの原則」の観点から禁止とされています。

 第二に、法律を適用させる場合、職員が住民を平等に取り扱うということです。例えば、法律に基づく申請があった時、職員が特定の住民の申請を素早く処理する一方で、別の住民の申請は意図的に遅く対応することは「平等取扱いの原則」により禁止されています(そうは言っても、私だったら、親友が申請してきたら気を使って、やや早く申請案件を処理し、クレーマーが来た場合は、意地悪して遅く対応してしまいそうですが、禁止です)。

 余談ですが、窓口に反社会的勢力の超怖い人が、不当に申請案件の処理を求めてきたとします。この場合は平等に扱わなくてもいいことになっています。地方公務員法は、平等に扱わない例外として「暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」と記しています。

 話を戻します。自治体職員が「誰に」を意識するのが苦手なのは、「平等の取り扱いの原則」に縛られているからだと推測します(上記の第二の理由です)。確かに、すべての住民を平等に扱うことは大切です。その意味で、すべての住民がターゲットになります。しかし、シティプロモーションの場合、すべてをターゲットにしつつ、メインターゲットを決定する必要があります。

 このような思考を持たなくては、シティプロモーションを成功の軌道に乗せることはできません。また、都市(自治体)間競争の中で、自治体の存続は厳しくなっていくでしょう(都市間競争が良いか悪いかという議論があります。これは別の機会に言及します)。

◇ペルソナという幻想

 「誰に」に関連して「ペルソナ」(persona)が話題に上がることがあります。ここからは問題提起をします。皆さんなりに考えてください。

 例えば、筆者が自治体職員に「メインターゲットという『誰に』を考えましょう!」と伝えます。すると、マーケティングを学んだ経験がある職員は「それはペルソナを構築するということですね!」と反応します。皆さんは「ペルソナ」を聞いたことはありますか?

 ペルソナとは「民間企業が自社の商品やサービスを提供するために設定する典型的なユーザー像」を意味します。民間企業はペルソナを意識して、経営戦略(マーケティングや販売、プロモーションなど)を組み立てれば、ユーザーのニーズに合わせた事業展開ができると言われています。その結果、売り上げが拡大します。

 地方自治体のシティプロモーションでも、ペルソナの重要性を指摘する職員が一定数存在しています。実際、ペルソナを設定している事例もあります。個人的に思うのは「シティプロモーションで、ペルソナを設定する意義は少ないのではないか」です(全く必要ないとは言いませんが…)。

 例えば、シティプロモーションのペルソナを「都会での生活に疲れ、転職を検討している20代半ばの男性。都内のワンルームマンションに住み、地元へのUターンを検討している」としたり、「都内の大手企業に勤務している、夫35歳、妻33歳の夫婦共働き、子どもなしの家庭。年齢的に子どもの誕生を考えている。現在は東京23区内の2LDKの賃貸マンションに居住しているが、郊外への引っ越しを考えている」としたりします(なお、ここで示した例は、実際に某自治体が設定している内容を参考に、筆者が少し変えたペルソナです)。

 ペルソナ信仰者は「ペルソナを意識した方が、より具体的にシティプロモーションを展開できる」と言います(「ペルソナ信仰者」という表現も怒られそうですが…)。確かにそうかもしれません。しかし、具体的に設定すればするほど、シティプロモーションの対象者が少なくなります。

 シティプロモーションは、一部の具体的な対象「者」ではなく、ある程度、幅のある対象「層」に実施した方が成果は上がる、というのが筆者の経験からの結論です。あくまでも「ある程度」です。ところが自治体は「かなり幅の広い」というケースが多くあり、やはり成果が導出されません。

 筆者は以下の状況を何度か経験しました。

 シティプロモーションに関して職員と意見交換する際、ペルソナを考えると、とても盛り上がります。そして盛り上がっていくと、その設定が目的化してしまうことがあります。さらに言うと、ペルソナを設定するだけで自己満足してしまいます。その結果、シティプロモーションが矮小(わいしょう)化されてしまいます。

 また、設定したペルソナが「本当に、そんな人いるのかよ」という場合も少なくありません。

 ペルソナを設定することは否定しません。しかし、ペルソナを検討する時は、統計データを根拠に置かなくては「机上のペルソナ」になるため注意してください。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【地域のよさを伝える】

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