2022/令和4年
1127日 (

コラム 【いま公務の現場では5】「ポスト公務員制度改革」の課題(前編) 2022/01/11 17:00

人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

人事院企画法制課長 植村隆生氏

 1990年代後半に当時の橋本龍太郎首相が推し進めた行政改革(統治機構改革)の柱の一つとされた公務員制度改革は、2014年の内閣人事局の設置により政治(官邸)主導で幹部人事をするための制度的基盤が確立したことで、事実上終了しました。

 今回は、橋本行革から内閣人事局が設置されるまでの経緯を簡単に振り返り、次回の後編で「ポスト公務員制度改革」時代の人事行政上の課題を取り上げます。

 なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆書が所属する機関の見解を代表するものではありません。

◇橋本行革から改革大綱の失敗まで

 バブル経済が崩壊して税収が大きく落ち込み、高級官僚の不祥事が相次いだ1990年代後半、国民の公務員不信の高まりの中で、小さな政府と政治主導を目指す行政改革が政治課題となりました。橋本首相は中央省庁を1府12省庁に再編して内閣主導の体制を構築し、実施部門を独立法人化するとともに、新たな器(中央省庁)に魂を入れるための公務員制度改革の検討に着手しました。

 当時の公務員制度の主要な課題は①政治主導(官邸主導)の公務員人事管理の実現②能力・実績主義と信賞必罰の徹底③再就職(天下り)規制の強化④官民間の流動性の向上⑤労働基本権問題――でした。

 橋本首相退陣後も、小渕恵三内閣、森喜朗内閣、小泉純一郎内閣で検討が重ねられ、2001年12月に「公務員制度改革大綱」が閣議決定されました。

 ところが、その多くは、政治主導の人事管理の実現という思想とは裏腹に、人事院の機能を各府省に分権化する内容でした。特に再就職規制について、人事院による承認制度を各大臣による承認に改めるとした部分は、天下りが各府省のお手盛りになるとの強い批判を浴びました。能力・実績主義の徹底の面でも、職務給や級別定数の制度をやめて新たに導入するとした能力等級制度は、(大綱が労働基本権は「現行の制約を維持する」としたため)一方的に使用者である各府省の裁量を強めるとして労働側の批判を浴びました。一部の経済官庁の役人がこれらの絵を描いたとの暴露話も飛び出し、結局、法案提出はできませんでした。

 「聖域なき構造改革」を掲げ、郵政民営化や道路公団民営化、公務員の総人件費の抑制などで強いリーダーシップを発揮した小泉首相は、公務員制度改革の必要性を強く感じなかったのかもしれません。大綱を含め、06年9月の退任までの間、小泉首相が公務員制度改革を強力に進めたとの印象はありません。

◇官僚主導から政治主導への動き

 その後、安倍晋三内閣の07年に国家公務員法改正が実現し、能力・実績主義の徹底のための人事評価制度と、再就職あっせんの禁止などを内容とする再就職規制が先行して導入されました。続く福田康夫内閣で、向こう5年間の改革のプログラムを示す国家公務員制度改革基本法が超党派で成立しました。同法には、政治主導を実現するための内閣人事局の設置をはじめさまざまな内容が包括的に盛り込まれました。次の麻生太郎内閣は、内閣人事局を設置して人事院から内閣に大幅に権限を移管する内容の法案を作りましたが、成立には至らず、政権は民主党に移りました。

 当時は、官僚に対する世論が非常に厳しく、「官僚主導から政治主導への転換」を掲げた野党・民主党が支持を高めていたことへの対抗もあって、政府・与党は政治主導を強化する公務員制度改革を強く推進しました。

◇民主党政権の改革関連4法案

 労働組合の支持を受けた民主党政権は、政治主導への転換に加えて、公務員の労働基本権の付与に注力しました。自律的労使関係制度を採用して人事院勧告制度を廃止し、新設する公務員庁が公務員労組と交渉して給与や休暇などの勤務条件を決める仕組みにするため、11年に国家公務員制度改革関連4法案を国会に提出しました。しかし、これも成立せず、廃案になりました。

 当時、「協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置する」と定めた国家公務員制度改革基本法12条を根拠に、政府は全体像を国民に提示しましたが、国民の意見の多くは否定的、批判的だったようです。

◇内閣人事局と官邸主導の人事

 自民党の政権復帰で誕生した第二次安倍内閣は14年、内閣人事局の設置と幹部人事の一元管理の導入を主な内容とする改正国家公務員法を成立させました。

 これにより、07年の法改正で積み残した政治主導による幹部人事の基盤が確立され、橋本行革以降の改革の主要な課題への制度的対応は事実上終了しました。その後、安倍内閣、菅義偉内閣が幹部公務員の人事を通じて官邸主導の強いリーダーシップを発揮したことは周知の通りです。

 なお、「事実上」と書いたのは労働基本権問題が残っているからですが、現状、公務員の労働基本権付与に国民の理解があるとは言えず、かつ、代償措置である人事院勧告制度が有効に機能しているので、近い将来にこの問題が政治課題になる可能性は極めて低いでしょう。課題のうち、官民間の流動性の向上は、主に各府省の人事運用上の課題です。これについては、次回のコラムで取り上げたいと思います。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【いま公務の現場では】

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