2023/令和5年
531日 (

コラム 【公務員の段取り力5】段取りをはばむもの~その解消法 2022/01/25 12:00

藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹氏

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

◇仕事が煮詰まる…そんな時は

 あなたが段取りを進める際、常に注意すべき点があります。自分を追い詰めないことです。自らを追い込み、気持ちが落ち込んだ状態でいくらものを考えても、思考が堂々巡りするだけで、時間の浪費になります。

 煮詰まったら、いったんその仕事から距離を置き、自分自身の「気」を変えることです。

 まず意識的に笑い、周囲にできるだけつまらない冗談を飛ばしましょう。それから自席を離れ、しばらく空を眺める。庁内の自動販売機でいつもと違う飲み物を買う。庁内をちょっと散歩する。その日は午後から休暇を取り帰宅するのも一つの処方箋です。ブランクは後日、十分に挽回できます。これらは自分で気の流れを変える大切な段取りです。気の流れが変わると、やがて新しい発想や打開策が浮かんできます。行き詰まった段取りの先に、次の段取りが見えてくるのです。

 次に進むためには、自分が煮詰まっている状態を、早めに自分で感知することが大事です。いつの間にか一つのことに没入し、それに溺れている自分を、冷静につかむ習慣を付けましょう。時折、今の仕事をあえて突き放し、「軽く」見る姿勢です。日々の没入、深みからいっとき抜けて、少し高い所からわが仕事を 鳥瞰 ちょうかん し、達観するのです。すると、仕事の全体像と、やるべき核となる要素が見えてきます。そこに向かって今、自分が最短距離で進んでいるのか、非効率な作業や余計な調査をしていないかも分かってきます。最優先で何をすべきかが、すっと浮かび上がるのです。

 仕事に没頭する自分と、高い場所から自分と仕事を見つめるもう一人の自分。この「二つの自分」を持つと良いと思います。

 それでもいよいよ解決しないと思ったら、周囲に向かって騒ぎ、叫ぶことも大切です。仕事はしょせん、一人ではできません。組織にいるのですから、もともと一人で課題を抱える必要などないのです。「何のための組織か?」 と考えれば答えは明解。行き詰まったら騒ぎましょう。周囲も上司も何事かと思い、寄ってきます。そして何が問題点なのか共有できます。一人で黙して抱え込まなければ、解決の道が早く見つかります。たとえ自分のミスが原因でも、これはいけないと思ったら、声を上げましょう。

 自分の段取りに限界を感じたら、組織に段取りをさせるのです。事態が悪化する前に職場の持つ処方箋が効き、必ず次の手順が編み出せます。

◇段取りは狂うもの

 懸命に立てた仕事の段取りも、さまざまな状況の変化で、時にはあきれるほど狂います。でも、ここで大事なことがあります。うまくいかない仕事を「失敗した」と勝手に決めつけないことです。仕事に完全な失敗などありません。うまくいかないのは失敗ではなく、一部が成功しなかったのです。「失敗」の2文字による乱暴な自己否定ほど、無意味で無価値なものはありません。何より、自分で自分に「失敗」のレッテルを貼り、士気を下げることが大きな損失なのです。

 取り返しのつかない事業・施策やサービスなどはありません。時は矢のように過ぎ、役所への需要は絶え間なく続き、変化します。失敗を決め込みふさぎ込んでいる暇はありません。眼前にはサービスを必要とする住民がいます。だから、うまく進まない時も、とにかく歩き続けることです。役所は社会と共に、常に動いています。動いているうちに、見えてくる策もあります。進展と成功のチャンスは、尽きることなくあなたの前に現れます。

◇悩むより動きましょう

 せっかく予算の付いたこの事業を成功させたいが、うまく進まないかも、できないかも…。新規事業に入る際、悩みや心配が襲ってくる場合も多いと思います。私自身もそうでした。しかし、その思いばかりを引きずっていると、結局、自分で逃げ道を作ってしまい、引っ込み思案になって成果がうまく出せなくなります。大切なのは、やると決めたら、くよくよと迷わず、ふてぶてしく動くことです。

 およそ自信というものに根拠は要りません。「根拠のない自信」こそが大事です。仲間や上司と相談し、多くの関係者と会いましょう。上手に流れができなければ、当面そこまでにして、次の戦略や別の落とし所を探ります。悩むより、動いた方がずっといいのです。今できるところから進めていくうちに、周囲や関係団体の中に、良き理解者や協力者が現れます。自分の思いが徐々に周囲に波及して関係者の間でつながり、事業が動き出すようになります。あなたの気迫と熱で、相手の態度や動きが次第に変わります。結局、人を最後に助けるのは人なのです。前を向いて行きましょう。

 確信と熱を持って取り組み、小さな成果が生まれてちょっと自信がつき、欲が出て、次の成功を考える。それがまた少しうまくいき、上司や住民に褒められる。そこで嬉しくなり、もう一つ事務事業を進めてみる。それが行政の道のりです。施策やサービスが人々に向けて日々動くようになります。役所は常に、人々に「動き」を見せる存在であることが大切だと思います。(了)

◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。

【公務員の段取り力】

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