2022/令和4年
1210日 (

コラム 【ナッジ入門編6】実践3:封筒メッセージで返送率アップ 2022/02/28 00:00

つくばナッジ勉強会(執筆代表・金野理和)

金野氏(左下)とつくばナッジ勉強会メンバー

 行政現場でナッジを活用した事例について、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は茨城県つくば市の「封筒のメッセージが返送率に与える影響」に関する検証結果です。市民に回答を依頼する封筒を郵送した際の返送率向上を目的に、実際に四つのグループに異なるメッセージを印字した封筒を使って確かめました。

◇題材は避難行動要支援者名簿

 今回の題材は、社会福祉課が担当する「避難行動要支援者名簿」です。「要介護認定3~5を受けている」などの一定の要件に該当すれば「災害時に自力で避難することが難しい方(避難行動要支援者)」として名簿に登録します。

 名簿情報は、災害時に民生委員らの「避難支援者」に自動的に提供されますが、平常時には避難行動要支援者・本人または保護者の同意がない限り知らされません。平常時に分かっていれば、災害時に備えて支援者と避難行動要支援者が一緒に避難計画の策定などの準備に入れるので、提供に同意する方を増やすことも大切です。

 つくば市は、平常時に名簿情報の提供の可否に関する意向を確認するため、年に1~2回程度、同意書の返送を郵送でお願いしていますが、返送率は40%にとどまっています。理由を封筒の受け取り側の行動プロセスから考えたところ、そもそも開封すらしない方が多いのではないかと推測されました。そこで、ナッジを活用し、封筒に工夫をして開封を促すことで返送率を上げられないかと考えました。

◇メッセージに意図を

 これまでは、市の封筒に住所と氏名を印字したラベルシールを貼るだけでしたが、ナッジ活用封筒では、従来のシールの下方に短いメッセージを加え、二重線で囲んでいます。これには、連載第2回で説明があった「EAST」というフレームワークを活用しています。短いメッセージにすることでシンプルかつ明確(Easy)に、さらに二重線で囲むことで印象的・魅力的に(Attractive)しています。

 メッセージにはそれぞれに意図があり、ナッジが活用されています。これらは、市の統計・データ利活用推進室(ナッジ勉強会)のメンバーが培ってきた知見から考えました。具体的には以下の通りです。

封筒(グループ1)メッセージなし
封筒(グループ4)メッセージあり=動作指示

 グループ1 メッセージなし(統制群)

 グループ2 「○○さまに大切なお知らせです」=「他の誰でもないあなた」へのお知らせですという「パーソナライズ」の意味を込めました。

 グループ3 「避難支援を受けられる可能性があります」=「利得」を強調しました。

 グループ4 「○年○月○日までにご返送ください」=封筒を受け取った人が次にする行動を具体的かつ明確に「動作指示」しています。

 画像に、グループ1と4の封筒を示しています。

◇効果検証の方法と結果

 検証は、2020年11月と21年1月の名簿登録者のうち851人を対象にしました。対象をランダムに4群に分け、それぞれの群に別々のメッセージを印字した封筒を郵送して返送率を比較しました。

 ただし、メッセージ以外に影響し得る要素があると、誤った結果が導かれる場合があるので、あらかじめ偏りをならす必要があります。そこで、過去の返送状況を確認したところ、名簿に掲載された理由(「要介護認定を受けた」「障がい者手帳を取得した」など)によって率が変わることが分かりました。そこで、対象のランダム化は、一度ではなく名簿に掲載された理由別にした後、合算して一つのグループを作る「層別ランダム化」を採用しました。

 こうして、影響し得る要素によるバイアスを小さくした上で返送率を検証した結果、メッセージなし(統制群)が39.8%だったのに対し、グループ4「〇年〇月〇日までにご返送ください」では52.8%と13.0ポイント高くなり、大きな予算を付けずとも、ちょっとした工夫で向上させることができました。率のアップを統計処理(検定)したところ、有意差がありました。つまり、偶然ではないことが示されたのです。

 その後、新規対象者全員の封筒に返送期限を印字しました。21年6月の返送率は前年度から26.5ポイント増の64.2%となりました(ただし、封筒に返送期限を印字したほか、チラシの改善と電子回答の導入の2点も追加しています)。未返送者への意向確認業務(職員2人による戸別訪問を想定)が減るため、年間約39日分の業務量、人件費換算で約113万円が削減できます。その分で別の事業を実施することも可能になります。

◇所属を飛び越え共通認識を

 市のナッジ勉強会は、ナッジを活用した政策を立案するだけでなく、他部署からの相談も受けています。今回の事例は、社会福祉課の担当者がナッジ担当者に相談したことが始まりです。自分の所属を飛び越えて他の部署に相談をするのは勇気が要ります。しかし、同課内で「一番大事な目標は人命を救うこと。それに必要な返送率や同意率を上げるため、何かしないといけない」という共通認識があったからこそ、封筒にメッセージを追加し、さらに効果検証までできたのだと思います(特に、今回のランダム化比較試験は、自治体の実施事例がまだまだ少なくハードルの高い手法です)。

 どんなメッセージを封筒に入れようか? 効果検証はどうやる?

 皆で意見を持ち寄って議論を重ねました。最適なアイデアが生まれた瞬間は、何にも代えがたいものがあります。私たちが楽しく生き生きと仕事をする姿勢は周りの雰囲気も変え、職場に好循環をもたらすこと間違いなし!

 

 早速やってみよう!!(了)

◇金野理和(こんの・りわ)氏のプロフィル
2012年につくば市役所に入り、産業振興、スポーツ振興、生涯学習の推進などを担当。19年からはオリンピック・パラリンピックを担当しながら「つくば市ナッジ勉強会」のメンバーとしてナッジの普及・活用を担当。現在は、政策イノベーション部統計・データ利活用推進室に所属し、引き続きナッジの普及・活用に携わる。上記の取り組みは、環境省のベストナッジ賞コンテスト2021で大賞を受けた。

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【ナッジ入門編】

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