コラム 【公務員の段取り力6】身近な達成目標を決めよう! 2022/02/18 17:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
◇無理のない到達点を決める
施策・事業を進める際に、あらかじめ私は自分なりの最初のゴールを必ず決めておきます。それは、無理のない到達点で、いわば自分のハラの中にある、仕事の最低ゴールです。企画段階でこれを決めておくと、事業の具体的な立案や予算要求、進め方も非常に楽になります。
自分の理想だけをベースに施策案を作ってもすぐに行き詰まる可能性がありますが、最低到達点を決めておけば、自分も関係者もそこまでは何とかやり遂げようとするので、取りあえず一定の成果は出せるわけです。
最低ラインと理想ラインの二つの到達点を決めたら、事業実施の段階では、まず、最低点に向かって一気に道筋を付けていきます。最低ゴールからさかのぼって段取りを決め、仕事を進めるのです。これが仕事の「さかのぼり段取り法」です。
最低到達点を初めに決めておかないと、事業実行の段階で、どうしても道に迷うことがあります。理想とする到達点だけに執着すると、必ず起こる数々の障害要因に道を阻まれた時、段取りと進め方に戸惑うようになります。誰に話を持ちかけ、誰と交渉し、どう調整し直すのかで迷い、あなたの考えや動き方がブレてきます。そうなると、同僚も関係者も落ち着いて協議に参加できなくなり、今後の進展や展開に、疑いや不安を感じるようになります。
ですから、担当者であるあなたが参画者全員に、まず最低の成果案を明確に示しておくことが、とても重要になるのです。そして、その成果イメージを早く全員に共有してもらうことが大切です。これが、仲間や上司、関係者と共に、常にブレない、スピーディな事業・施策を進める最大のコツです。以上を下図に要約しておきましょう。

これで、施策・事業の進行が混乱をきたすことはないでしょう。「ここまではやれる!」という確信の共有に基づいたゴールなので、携わる全員の士気が落ちることは、まずありません。事業進展の各過程で、参画する各自の思考と行動が整理しやすくなり、皆が同じ思いで施策を具現化することができます。
住民は公務の完成度の高さを要求します。だからといって最初からあまり気負い過ぎ、飛ばし続けて完璧を期そうとすると、かえってうまくいかないものです。特に事業推進の序盤戦での息切れや焦りは、仕事の効率を大きく落とします。それゆえ、まず最終目標の6割を目指すのです。それで事業に関わる皆の気持ちが楽になり、ストレスがない分、士気が保たれ、仕事の効率は上がります。誰もが一気に段取りを進め、目的に向かって走ることができます。「よし、そこまでならできる!」と思えば、事業は既に、おおむね成功なのです。
事業進展のスピードが上がると、仕事に勢いと弾みが付いてきます。すると、実際の成果レベルは、理想となる目標の7~8割まで上がってきます。人は心理で動く「気」の生き物です。あとは追い込み次第。おおむね8割まで達成できたら堂々と住民にPRし、仕事の意義と成果を公表しましょう。80点でも臆さずに、住民に丁寧に、大いに成果を発信するのです。
実績が多くの人々に知られることが、行政として非常に大切です。成果が具現化し、早く人々の眼前に訪れると皆が嬉しいし、職員も達成感が早く味わえます。さらに成果内容が報道されれば、仕事の苦しみが一変して、楽しみに変わります。「次の事業も頑張ってみるか!」という雰囲気に職場が包まれます。
◇協議は車座で
こうして事業を進める上で、上司や管理職は、どう構えればいいでしょうか。大切なのは見守りとアドバイスの姿勢です。まずは、あれこれこまごまと指示をせず、担当者に自由にやらせてみることです。そして、問題が発生したらすぐに報告するよう徹底します。問題発生の報告を受けたら、稟議(りんぎ)ではなく、素早く関係者が車座となり、管理職も加わって皆で一緒に考え、早く次の手を打ちます。これが、稟議制から円陣法への転換です。上司や管理職がこの姿勢で臨んでいると、予想外の良い対処案や改善結果を、特に若手が早く持ってきてくれます。これがまた、楽しみの一つになります。私自身、問題発生時に若手から多くの提案や報告を受け、早く意思決定ができて、職場の全員で成果の喜びや達成感を味わってきました。
問題事案への対処とスピーディな解決に、稟議制度は時に障害となります。役所組織のピラミッドに拘泥せず、特に問題発生時は上司も部下も協働し、円陣を組んで全員が知恵を出し合い、早く解決することが大事です。それで関係者や地域も役所の仕事ぶりを理解し、スピード感を評価して、もろもろ協力してくれる可能性も高まるのです。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。