2023/令和5年
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コラム 【地方議員の視点4】議員の行政視察って何?(国内編・上) 2022/03/15 00:00

甲府市議会議員 神山玄太氏

甲府市議会議員 神山玄太

 「行政視察の対応をお願いしたいのですが…」

 読者の中にも議会事務局からこのような連絡をもらったことがある方がいるのではないでしょうか。

 私たち地方議員は、まちづくりの参考にするために他都市の事例研究をしています。行政視察もその大事な方法の一つです。新型コロナウイルスの感染拡大で、行政視察をお願いしにくくなってしまいましたが、オンラインの視察を受け入れてもらったり、どうしても現地に赴く必要がある場合は、感染拡大防止措置を徹底的に講じて伺っていたりしています。

 受け入れ側の市の担当者の方々には、いつも懇切丁寧に対応していただいており、心から感謝しています。

◇行政視察は「答え合わせ」

 私は、国内での行政視察の目的は「答え合わせ」だと思っています。

 地方議員は日ごろから自分が住む自治体の政策課題について、その解決方法や成果を出すためにはどうすればいいのかを考えています。そこで、課題解決のヒントを得るために行政視察をするわけです。視察先の自治体が同じ課題についてどのように取り組んでいるのか説明を受け、意見交換することを通じ、自分が考えてきた解決方法や成果を出すための方法をどう考えればいいのか、あるいは違うアプローチの方がいいのかなどを確認しています。

 全国各地での行政の取り組みは、同じ国の同じ制度の下で進められていますので、よほどのことがない限り特別な内容はありません。同じ取り組みをしていても、自治体によって成果が出ているかどうかの違いは、担当者の進め方や着眼点の違い、また自治体が置かれている状況などに起因しています。

 視察先で、こちらのテーマに沿った説明を受けた後、自身の自治体が直面している課題について考えていることを率直に伝え、意見交換に入ります。私たちの疑問に対して、結構本音で答えてくれることも多く、意見交換を通じ、課題解決に向けて考えをより深めさせてもらっています。行政視察で「答え合わせ」をすることで、議会での政策提言に結び付いた事例は数多くあります。

◇帰途ギリギリまで意見交換

 冒頭で触れたように、行政視察の依頼は議会事務局から担当部署に連絡があることが多いと思います。行政視察にはルールがあり、視察したい側の議会の議長から、受け入れる側の議会の議長に対して依頼することになっており、頼まれた議会の事務局に担当職員の方との調整をしてもらっています。

 例えば甲府市議会は、行政視察の申し入れがあった場合、議長が受理してから、議会局長を通して説明を担当する部署の責任者(部長)に対応を要請します。これを受け、担当職員の方が先方との調整や説明に当たるという手順を踏んでいます。

 行政視察は、先進的な取り組みで注目されている自治体や自身の自治体の課題解決に寄与する対応をしていそうな自治体を選んでいます。視察先を決める際、時事通信社の行政専門ニュースサイト「iJAMP」はもちろんのこと、月刊ガバナンスや月刊グローカルなどの政策情報誌、全国市議会議長会発行の「全国都市の特色ある施策集」などからピックアップしています。他にもテレビで特集されたり、各市議会がホームページに掲載したりしている事例も参考にしています。

 視察先の議会や自治体には、全体のスケジュールも資料としてお送りするのですが、訪問先で「こんなに視察を盛り込んでいる行程表を初めて見ました」と言われたことがあります。私が予定を入れる場合、1泊2日の行程では最低でも3カ所、2泊3日では同じく5カ所で日程を組むようにしています。帰途に就くギリギリまで意見交換の時間に充てることもよくあります。視察先では、私たちのため担当職員の方にわざわざ説明の時間を取ってもらうのですから、行政視察を有意義にするために、こちらも十分に事前学習し、課題を整理した上で訪問しています。

 甲府市議会は、行政視察に掛かる旅費を政務活動費から支出できるとしています。「政務活動費使途基準」で「調査研究費」として「会派が行う市の事務、地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に関する経費(旅費、委託料、講師謝金、通信運搬費等)」と定めています。せっかく旅費を使わせてもらい行政視察に行くのですから、市の取り組みに反映できる情報を目いっぱい持って帰ってきたいという思いで事に当たっています。

 視察から帰れば報告書を作成します。甲府市議会は報告書もホームページで公開していますので、皆さんの参考にしてもらいたいという思いで書いています。議会で質問する際も、報告書に言及して発言しています。

 次回は、国内編の(下)として、印象に残る行政視察の例を具体的に説明したいと考えています。(了)

神山玄太・視察/研修報告書へのリンク
→ http://blog.livedoor.jp/genta_kamiyama/archives/52390433.html

◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、甲府に戻る。2010年、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。11年に甲府市議に初当選。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。15年の甲府市長選挙では次点で落選。甲府市議に2期目の当選後、17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。19年4月から3期目の甲府市議。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。

【地方議員の視点】

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