2023/令和5年
128日 (

コラム 【公務員の段取り力7】段取り力を会得する 2022/03/23 17:00

藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹氏

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

 公務員は一人で多くの仕事を抱えています。ですから仕事をテキパキとよどみなく進める段取り力は、私たちに必須です。ではそれはどんな要素で成り立ち、どうすれば会得できるのか、整理してみましょう。

◇覚知力と臨機応変力

 事態を早く察知して判断し、すぐに行動に移さなければなりません。それが、「覚知力と臨機応変力」です。ある事案で学んだ技術を他の事案で応用する力でもあります。地方分権に伴い多くの行政権限を持つ市町村の窓口には、毎日多くの人々が訪れます。手続き、要望、苦情、面談、相談、照会、マスコミの取材など、内容もさまざま。新たな事柄も含め、日々押し寄せるさまざまな事案に向け、自ら進んで対応を重ねていくと、次第にこの力がついてきます。まさに多戦・多学の成果ですから、仕事は万事、逃げずに「受ける」姿勢が大切です。

◇課題の設定力

 今、何が課題・問題なのかを早く絞り込むのが「課題の設定力」です。担当者として、最もやるべきだと思うサービスは何かを早く見極める力です。特に、施策・事業の立案の際に発揮されます。現場の情報とデータを用いて素早く企画・立案する動作に慣れてくると、地域で今、何が不足し、どんな問題が起きているかを脳内にくっきりと思い浮かべ、目で見たように捉えられるようになります。そして課題への対処方法とともに、解決した時の情景も、写真や動画のように想像できるようになります。まさにイメージとシミュレーションの力です。

 これをどうやって培うか。課題や問題の解決の段取りは、まず現場に行き、地域の状況を知ることから始まります。地域にはさまざまな声がありますが、その中から何が真に求められ、何が優先されるべきかをつかむ力は、現地の状況を、絵や動画として脳内にたくさん蓄積することで身に着いてきます。これは座学の机上論からは得られません。現場でさまざまなもの、地域の実態を自分の目で見ることが何より大事です。

◇解決への速攻判断力

 課題や問題点を手早く整理し、どう解決するか、施策や事業、事務の改善などで当面どこまで対処するかをすぐに決める力が「解決への速攻判断力」です。できるだけ簡明な資料を作り、自分の着想や構想を1枚のペーパーで戦略の形にしてみましょう。常に、できるだけ簡潔に整理する訓練が大切です。資料や書類をたくさん作ることがあなたの仕事ではありません。それはあなたの自己満足にすぎません。いかに早く、簡潔・明瞭に、多くの人に分かりやすく読まれる戦略書を作るかが大事なのです。

 この所作を意識的に繰り返すことで、あなたの作業スピードは徐々に上がってきます。課題解決に向けて、すぐにできることと一定期間を要するものとがあるので、まず前者に取り掛かります。そこでは具体的な行動内容を書き出して整理する日ごろの習慣が役立ちます。段取りとは、やるべき行動の選択肢を整理し、早く決めて行動する技です。そして「最低、ここまではできる!」という、当面の「落としどころ」のイメージを描くのです。眼前の住民は待ってくれませんから、ここまでは大丈夫だという「最初の成功画像」を頭に描き、それを早く相手に示すことです。その中身が具体的なら相手は取りあえず理解し、安堵(あんど)します。それを実行すれば、相手は当面それで満足し、評価してくれます。これは役所の素早い反応と行動を見せ、人々を安心させる力と言えます。

◇企画力と企画運営力

 ある展望や考え方の下に政策を思い浮かべ、即時・中期・長期の各視点で、施策・事業をこうしたいと考え、それをぐいぐいと押し進めるのが「企画力と企画運営力」です。

 事業の企画にはスケジューリングが欠かせません。突発事案への対応で直ちに取り掛からなければならない施策であっても、予定・日程の段取りは丁寧に議論して固めましょう。また、仕事は組織で進めるのですから、意気込みだけで一人で突っ走っても成果は出せません。管理職から経営幹部までの理解と後押し、同僚の協力が必要になります。段取りの基本は組織内の「同じ思いの共有」です。関係者に常時、しつこいほど連絡を取り情報を共有することで、あなたにチームを引きつける運営力と指揮力が生まれます。これには日ごろの職場での会話の数、つまり「風通し」が大きく影響します。何より明るさが大事です。

◇コミュニケーション能力

 コミュニケーション能力とは、簡潔で要領の良い言葉の選択と資料で、あなたの思いや事業の中身、具体的な行動などを、誰に対しても分かりやすく伝え、成果に向けた対話につなげる力です。思いと戦略を伝えて語り合う言葉の訓練と駆使で養われます。

 毎日黙々と目立たぬよう仕事をする公務員など、今や昔の存在。もう役所には要らないし、地域社会もそれを求めていません。必要なのは自らの施策ビジョンです。「自分はまちをこうしたい!」という熱い思いと、それを実現する具体的な戦略を、上司や住民に一発で届くよう分かりやすく説明し、誠実に意見を聞き、対話できなければなりません。この能力は日ごろから意識してトライすることで、誰でも確実にアップできます。

 皆さんは日々の仕事を通じて、上記の力の幾つかを既に勝ち得ているはずです。さあ、自信を持って進んでいきましょう。(了)

◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。

【公務員の段取り力】

同一カテゴリー記事

  • 【現場力を高める4】メンタルを強くする 2023/11/16 14:00

     仕事で精神的に追い詰められるのは総じて真面目な人です。何事にも懸命に取り組み、頑張り続けることで、知らず知らずのうちに自分で自分を追い詰めてしまっているのです。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【現場力を高める3】自ら「育む」で経営強靭化 2023/10/24 10:30

     プレーヤーとしての仕事に追われてマネジメント業務ができない。「あの上司の下では働きたくない」と公言された。部下が「うつ」になった。新人がすぐに辞めてしまう。職員が管理職になりたがらない…。いずれも管理職が直面する課題の典型例であり、それらの解決策をガイダンスする書籍もたくさん出ています。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【現場力を高める2】管理職ができること 2023/10/18 11:40

     課長として職場を経営する。その職に就いて、まず取り組むことは何でしょう?部下はあなたを常に観察しています。その日のあなたの動静を見て、報告や相談、決裁のタイミングをはかり、顔色、機嫌にも敏感です。課長の一挙手一投足が、課内に影響を与えています。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【シティプロモーション再考7】外に向けて 2023/09/29 11:00

     シティプロモーションは、大きく3類型できます。それは①アウタープロモーション②インナープロモーション③インターナルプロモーションーです。アウタープロモーションとは、自治体の地域「外」に向けて当該自治体の特長を訴求していく活動です。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【新連載】【現場力を高める1】職場を率いる 2023/09/25 11:00

     職場や組織の経営・管理…。一体、どういうものだと思いますか?年齢と経験を重ね、ついにマネジメントをする立場になった。でも自分のポストに戸惑い、迷ったことはありませんか?静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【シティプロモーション再考6】矮小化の恐れ 2023/09/20 11:00

     今回は、シティプロモーションを推進するに当たり、具体的な事業に関するアンケート結果に言及します。取り上げる紙業は広報動画(プロモーション動画)です。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【シティプロモーション再考5】首長、議会の関心状況 2023/08/25 10:40

     今回はシティプロモーションに関する首長の取組み姿勢を説明します。シティプロモーションに限りませんが、首長の方針により、政策の強弱(そして無関心)が決まってきます。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【地方議会めぐる新潮流5】議員のなり手不足(下) 2023/08/09 15:00

     議員のなり手不足は、まず「議員になる道」を選択する人自体が少ないからではないかと感じています。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【職場が輝く知恵とワザ5】カッコいい上司とは? 2023/07/28 13:00

     あなたの周りに「いいなあ」「見習いたい」と感じる上司や先輩がいるでしょう。自分が進んだ道を究めた職業人気質、自分が選んだ道を全うする先達の立ち姿は、後進の目にも格好よく映ります。「あの先輩のようになりたい」「あの幹部の下で働きたい」など、理想とする「人財」のモデルが組織に実在すれば、目指す存在、なりたい自分の立ち姿、目標は明瞭です。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【行政×ナッジの可能性3】感染症対策×ナッジ 2023/07/18 10:00

     風疹の流行を防ぐため、厚生労働省は2019年度から追加的対策を進めています。ターゲットは、制度の狭間で公的予防接種の対象から外れた40~60代の男性。この年代の男性の抗体保有率が低いため、先進国では大変珍しいことに、日本は風疹の集団免疫を獲得できていません。そこで、抗体検査や予防接種の無料クーポンを発行し、自治体を通じて郵送することで検査や予防接種を促しています。また、追加的対策の一環で、大阪大学の研究チームがナッジを活用したリーフレットを作ってクーポン券郵送時に同封するなど自治体での活用を呼び掛けています。PolicyGarage事務局/慶応大学看護医療学部特任助教 赤塚永貴