2023/令和5年
327日 (

コラム 【公務員の段取り力7】段取り力を会得する 2022/03/23 17:00

藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹氏

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

 公務員は一人で多くの仕事を抱えています。ですから仕事をテキパキとよどみなく進める段取り力は、私たちに必須です。ではそれはどんな要素で成り立ち、どうすれば会得できるのか、整理してみましょう。

◇覚知力と臨機応変力

 事態を早く察知して判断し、すぐに行動に移さなければなりません。それが、「覚知力と臨機応変力」です。ある事案で学んだ技術を他の事案で応用する力でもあります。地方分権に伴い多くの行政権限を持つ市町村の窓口には、毎日多くの人々が訪れます。手続き、要望、苦情、面談、相談、照会、マスコミの取材など、内容もさまざま。新たな事柄も含め、日々押し寄せるさまざまな事案に向け、自ら進んで対応を重ねていくと、次第にこの力がついてきます。まさに多戦・多学の成果ですから、仕事は万事、逃げずに「受ける」姿勢が大切です。

◇課題の設定力

 今、何が課題・問題なのかを早く絞り込むのが「課題の設定力」です。担当者として、最もやるべきだと思うサービスは何かを早く見極める力です。特に、施策・事業の立案の際に発揮されます。現場の情報とデータを用いて素早く企画・立案する動作に慣れてくると、地域で今、何が不足し、どんな問題が起きているかを脳内にくっきりと思い浮かべ、目で見たように捉えられるようになります。そして課題への対処方法とともに、解決した時の情景も、写真や動画のように想像できるようになります。まさにイメージとシミュレーションの力です。

 これをどうやって培うか。課題や問題の解決の段取りは、まず現場に行き、地域の状況を知ることから始まります。地域にはさまざまな声がありますが、その中から何が真に求められ、何が優先されるべきかをつかむ力は、現地の状況を、絵や動画として脳内にたくさん蓄積することで身に着いてきます。これは座学の机上論からは得られません。現場でさまざまなもの、地域の実態を自分の目で見ることが何より大事です。

◇解決への速攻判断力

 課題や問題点を手早く整理し、どう解決するか、施策や事業、事務の改善などで当面どこまで対処するかをすぐに決める力が「解決への速攻判断力」です。できるだけ簡明な資料を作り、自分の着想や構想を1枚のペーパーで戦略の形にしてみましょう。常に、できるだけ簡潔に整理する訓練が大切です。資料や書類をたくさん作ることがあなたの仕事ではありません。それはあなたの自己満足にすぎません。いかに早く、簡潔・明瞭に、多くの人に分かりやすく読まれる戦略書を作るかが大事なのです。

 この所作を意識的に繰り返すことで、あなたの作業スピードは徐々に上がってきます。課題解決に向けて、すぐにできることと一定期間を要するものとがあるので、まず前者に取り掛かります。そこでは具体的な行動内容を書き出して整理する日ごろの習慣が役立ちます。段取りとは、やるべき行動の選択肢を整理し、早く決めて行動する技です。そして「最低、ここまではできる!」という、当面の「落としどころ」のイメージを描くのです。眼前の住民は待ってくれませんから、ここまでは大丈夫だという「最初の成功画像」を頭に描き、それを早く相手に示すことです。その中身が具体的なら相手は取りあえず理解し、安堵(あんど)します。それを実行すれば、相手は当面それで満足し、評価してくれます。これは役所の素早い反応と行動を見せ、人々を安心させる力と言えます。

◇企画力と企画運営力

 ある展望や考え方の下に政策を思い浮かべ、即時・中期・長期の各視点で、施策・事業をこうしたいと考え、それをぐいぐいと押し進めるのが「企画力と企画運営力」です。

 事業の企画にはスケジューリングが欠かせません。突発事案への対応で直ちに取り掛からなければならない施策であっても、予定・日程の段取りは丁寧に議論して固めましょう。また、仕事は組織で進めるのですから、意気込みだけで一人で突っ走っても成果は出せません。管理職から経営幹部までの理解と後押し、同僚の協力が必要になります。段取りの基本は組織内の「同じ思いの共有」です。関係者に常時、しつこいほど連絡を取り情報を共有することで、あなたにチームを引きつける運営力と指揮力が生まれます。これには日ごろの職場での会話の数、つまり「風通し」が大きく影響します。何より明るさが大事です。

◇コミュニケーション能力

 コミュニケーション能力とは、簡潔で要領の良い言葉の選択と資料で、あなたの思いや事業の中身、具体的な行動などを、誰に対しても分かりやすく伝え、成果に向けた対話につなげる力です。思いと戦略を伝えて語り合う言葉の訓練と駆使で養われます。

 毎日黙々と目立たぬよう仕事をする公務員など、今や昔の存在。もう役所には要らないし、地域社会もそれを求めていません。必要なのは自らの施策ビジョンです。「自分はまちをこうしたい!」という熱い思いと、それを実現する具体的な戦略を、上司や住民に一発で届くよう分かりやすく説明し、誠実に意見を聞き、対話できなければなりません。この能力は日ごろから意識してトライすることで、誰でも確実にアップできます。

 皆さんは日々の仕事を通じて、上記の力の幾つかを既に勝ち得ているはずです。さあ、自信を持って進んでいきましょう。(了)

◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。

【公務員の段取り力】

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