2022/令和4年
1210日 (

コラム 【ナッジ入門編7】実践4:まずは模倣から(レジ袋の辞退率向上) 2022/04/04 17:00

北海道行動デザインチーム(執筆代表・金子賢樹)

金子氏(右下)と北海道行動デザインチーム

 行政現場でナッジを活用した事例について、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は北海道行動デザインチーム(HoBiT=Hokkaido Behavioral insight Team)による「レジ袋の辞退率向上」の実践例を紹介します。ナッジの普及を目指す特定非営利活動法人PolicyGarageが執筆を依頼しました。

 HoBiTは、行動デザイン(ナッジなど)の考え方を道内の自治体政策に浸透させ、費用対効果の高い公共サービスを提供することをミッションに、2020年3月に道庁の若手職員有志で結成されました。以下の1~3の結成趣旨に基づき、ナッジの活用促進が目的の講演・研修や、ナッジの事例づくりと庁内部局への事例創出支援、全国の自治体との情報・認識の共有などの活動に日々取り組んでいます。

 1 ナッジをきっかけとしたアウトカム思考(成果)の政策推進

 2 若手職員による自発的なスモールスタート機会の創出

 3 分野横断型の庁内外・道内外ネットワーク構築

 今回の事例のほか、勉強会を通じた仲間づくりにも注力しています。道総合政策部の政策開発推進事業に採択されたことで、有志の活動に加え、公式面も含めたハイブリッド型で道政課題にも対応しています。

◇経産省の試行実験に着目

 今回は庁舎内店舗でレジ袋の辞退を促した事例を紹介します。

 日本ではプラスチックごみ削減のため、20年7月から多くの小売店でレジ袋が有料になり、報道によると、有料化した小売店では利用客の7割以上がレジ袋を辞退しています。一方、バイオマス素材が25%以上含まれるなど、一定の基準に沿って環境に配慮したレジ袋は無料で配布できます。道庁舎内の店舗はこの基準をクリアすることでレジ袋を無料にしました。HoBiTの調べによると、この店舗での辞退率は約3割にとどまりました。これを受け、有料化とは違う手段として、ナッジを使うことでレジ袋を辞退するという行動変容を促せないかと考えました。

 そこで、経済産業省で実践されていた「ナッジを活用した庁舎内店舗におけるレジ袋削減の試行実験」に着目しました。

◇デフォルト化

 デフォルト化は、選択してほしい行動をあらかじめ初期設定することです。例えば、脳死時の臓器提供に係る意思表示に関する研究は、その効果を如実に表しています。例えば、欧米の一部の国では意思表示のデフォルト設定が「提供する」となっており、臓器提供の同意率が100%近くになっています。倫理的観点から議論する必要があるものの、この事例はナッジの一つの手法です。

 さて、道庁舎内店舗ではレジ袋の配布がデフォルト化されています。利用客が不要だと申し出ない限り、レジ袋が渡されます。経産省の取り組みを参考に、利用客が希望する場合は店内に備えた「申告カード」をレジまで持って行くよう設計しました。「レジ袋を配布しない」ことをデフォルト化することで辞退率向上を期待しました。

◇社会規範を採用

 社会規範は、所属するグループや他者の行動、慣習、価値観に影響される傾向のことです。本連載の【ナッジ入門編1】では、禁煙を促すポスターにたばこの煙にさらされそうな子どもの絵を入れるといった例を紹介しました。この他「あなたがマスクをすれば周りの人を救うことにつながる」というフレーズも社会規範です。

図1

 経産省の取り組みは、社会規範を利用した申告カードのメッセージやデザインを用いており、HoBiTも同様の検討をしました。申告カードにプラスチックごみの削減を勧めるメッセージと海岸に漂着したプラスチックごみの写真を載せ、カードを手に取ろうとしても考え直し、次回から手に取らなくなることを期待しました(図1)。

 利用客に申告カードの存在を確実に認知してもらうため、入店から会計までの一連の動きを現場で確認した上で、レジに並ぶ場所にカードを掛けた棚を置きました。万が一、配布を希望しているにもかかわらずカードを取り損ねた際に備え、レジ横にもカードをつるしておきました(図2)。

図2

 デフォルト化と社会規範を組み合わせた結果、介入前のレジ袋辞退率は39%でしたが、介入後は63%となり24ポイント上昇しました。これで、1日当たり約500人分のレジ袋の削減になる計算です。人間の特性と現場での観察を考慮したナッジを取り入れれば、これだけの成果を出せるのです。

◇小さな事から実践

 HoBiTは、エゾシカと自動車との衝突事故(エゾシカロードキル)問題の解決など道独自の課題でも、関係機関と連携しながら着実に事例を積み重ねています。それと同じエネルギーで、先行事例を参考にした道での実践、課題解決にもチャレンジしています。若手職員でも実行できます。勤務年数や所属は関係ありません。

 ナッジは分野を選ばない手法です。レジ袋の辞退は環境分野ですが、保健医療福祉や公衆衛生など使いどころは多岐にわたり、HoBiTも多種多様なメンバー構成になっています。メンバーの思いに共感してそれぞれの立場や個性を生かし、熱い思いをもって行動した結果、結成2年足らずで人数も倍増しました。HoBiTの活動趣旨である、分野横断型ネットワーク構築だけでなく、大学や研究機関との連携も日を追うごとに厚みがでてきています。

 ゼロから生み出す必要はありません。まずは、私たちと一緒に社会を昨日よりちょっと良くしていきませんか。(了)

◇金子賢樹(かねこ・まさき)氏のプロフィル
2020年北海道入庁。議会事務局総務課勤務。有志勉強会に飛び入り参加した際にHoBiTに出会い、ミッションに共感しチームに加入する。

PolicyGarageへのリンク
→ https://policygarage.or.jp

【ナッジ入門編】

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