2022/令和4年
124日 (

コラム 【地域のよさを伝える7】「何を」に関する視点 2022/04/11 17:00

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔

 前回、シティプロモーションは「『何を』売るのか(伝えるのか)」がポイントだと紹介しました。今回から「何を」に着目し、幾つかの視点(あるいは注意点)に言及します。

 キツイことを書きますので、心臓の弱い方は読まないほうがいいかもしれません…。

◇ブランドメッセージの間違い

 前々回の連載で指摘したように、シティプロモーションで重要なのは「誰に」というメインターゲットの設定です。政策目標達成のために「誰に」を設定します。そして「誰に」が共感するメッセージ(「何を」)を用意することが大切です。

 今日、地方自治体のシティプロモーションには、ブランドメッセージが用意されていることがあります。多くは「自分たちが伝えたいこと」や「自分たちの強み」をブランドメッセージとして言語化しています。このような状態では、はっきり言って、シティプロモーションの所期の政策目標は達成できません(そもそも所期の政策目標が不明確なケースもあります。この点は別の機会に説明します)。

 民間企業で言うところの生産者の独りよがりのブランドメッセージであり、消費者の意向(ニーズ)はくんでいません。なお、一般的には生産者側に立ったプロモーションは、消費者が商品やサービスを選んでくれないため、中長期的には倒産に進む危険があります。

 私なりに解釈すると、多くのブランドメッセージは「俺たちの自治体には、こんないい資源がある。こんな強みもある。だから、引っ越して来い」と言っているようなものです。「お上」意識が強いと言えます。このようなブランドメッセージを策定した場合は、往々にして成果が表れません。

◇手段と目的のはき違え

 一生懸命にブランドメッセージをアピールしても、定住人口や観光客が増えない状況ですが、多くの地方自治体は満足(「納得」かも)している傾向があります。なぜ、満足(納得)するかと言うと、設定したブランドメッセージを使うことが目的化しているからです。

 すなわち「イベントで何回ブランドメッセージを使った」「住民からのブランドメッセージの使用申請が何件あった」などです。手段と目的をはき違えているのです。

 ブランドメッセージを活用したら「定住人口が何人増加した」とか「観光客が何割増した」を求めるべきです。しかし、往々にして使うことが目的化して「作ったコンテンツを使おう」という発想に陥ります。

 本当は、ブランドメッセージやゆるキャラ、ロゴマークというコンテンツを手段として、定住人口や交流人口の獲得を目指すべきですが、コンテンツそのものを使うことが目的化する傾向が強くあります。

 自治体職員は真面目なので、一生懸命にブランドメッセージを使おうと考えます。そのため何となくシティプロモーションをしている気持ちになっています。そして月日が流れ、定住人口や観光客の増加という成果が何も出せずに、担当職員は異動していきます。言い方がキツイかもしれませんが、当事者はそれで満足しているので、自分は良いと思っています。本人は異動しているため、政策目標を達成していなくてもおとがめなしです。

 余談ですが、ブランドメッセージを作る予算は用意したけれど、それを広げる費用は確保していなかった事例もあります。特にシティプロモーション動画に見られます。その結果、ブランドメッセージが広がっていかないケースがあります。この点も注意してほしいと思います。

◇シティプロモーションごっこ

 繰り返しになりますが、強調しておきます。私はブランドメッセージを「地方自治体が設定したメインターゲットに共感してもらうメッセージやキャッチフレーズ」と捉えています。つまり「誰に」というメインターゲットの設定が極めて重要なのです。

 しかし、多くのシティプロモーションは「誰に」を明確にしていません。定めたとしても、自分たちの自治体の特徴や強みばかりをアピールする「お上」目線のブランドメッセージになってしまいます。これは「シティプロモーションごっこ遊び」と言えるかもしれません(これもキツイ表現ですね。すみません)。

 逆に言うと、多くのシティプロモーションがそういう状況なので、これから取り組む自治体に勝算の可能性は十分にあるでしょう。

 話はややそれますが、某自治体は自治体外からの転入促進を意識し、かつメインターゲットも設定してブランドメッセージ案を用意しました。幾つかの案から一つに決定する段階となり、住民の意向を聞くことにしました。これって、あまり意味がないことは分かりますよね。

 あくまでも当該自治体のシティプロモーションは自治体外からの転入促進を意図しているため、本来は自治体外のメインターゲットを対象に、ブランドメッセージ案を確認して決める必要があるわけです。ところが、住民の意向だけを確認してしまったため、メインターゲットとブランドメッセージに食い違いが生じてしまいます。しばしば、こういう間違いをすることもあるため注意してほしいと思います。

 ちなみに、この自治体は住民投票でブランドメッセージを決めてアピールした結果、自治体外からの転入促進は見られませんでしたが、転出率に逓減の傾向が得られました。人口維持の観点で考えると、それはそれで良かったのかもしれません。

 次回も「何を」に関連して言及したいと思います。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【地域のよさを伝える】

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