コラム 【公務員の段取り力8】予期せぬ事態への対応 2022/05/13 14:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
◇想定外の時こそ冷静に
平穏な空気を打ち壊すような予想外の問題が発生!
突発事案にぶち当たった時、皆さんはどうしますか。ここでも大切な段取りがあります。慌てていては何の知恵も浮かびませんし、動揺すればするほど具体的な対処は遅れます。まずは深呼吸。息を腹から吐ききり、十分に吸い込んだ後、冷静に以下のような行動プロセスに移りましょう。
まず発生した問題について、正確な「情報」を集めます。問題に関係する法令や条例などの諸規定があるかどうかも検討します。そしてどんな問題にも必ず背景の事情があるので、できるだけ早く把握します。そこまで分かったら、他の自治体で類似案件の発生があるかないか、周辺自治体の状況を担当者に連絡して聴取します。私は仕事の成否は直感とイマジネーション(想像力)で決まると信じていますが、最初に自分の経験論や感覚だけで対応案を作ると的外れになることがあります。「情報」集めの早さと的確さで、解決策の有効性が決まります。

次に、集めた情報を「整理」します。法令などの規定と照らし合わせるとともに、他自治体の類似事案と対応例などを、現在の案件に近い順に分類し、材料を精査します。
それから、整理した情報を「分析」します。直面する問題の特徴と原因、背景や法令適用の有無、当該事案に最も近い他の事例の中身と対応情報があれば、対処の道筋を効率的に「思考」することができます。ここで、自分の策を練るのです。対策または事業(戦略)として「私ならこうしたい」という案を考え、箇条書きや絵図にしてまとめます。書類の文字数は最小限にしましょう。早く方針案が欲しい上司や幹部に、長くてごちゃごちゃした説明文を読ませてはいけません。方針(戦略)書は簡潔にまとめ、まず結論を示し、理由と現況、経緯や関係法令などは後に載せます。そして結論を実行する手順を箇条書きにし、スケジュール案を添えます。全体で1ページから最大でも3ページにします。これを使って上司への相談、関係者との協議に入ります。こうして組織としての「判断」と具体的な「実践」がなされることになります。
実践は、担当者としてのあなたの腕の見せどころになります。詳細な取り組むべき項目と内容が必要ですが、基本的にそれらは手持ち資料、いわば「ネタ帳」です。必要に応じて整理した書面を上司や関係者に渡し、共有します。
いずれも日ごろの業務で特に意識せずにやっている段取りと行動のパターンですが、突然の問題発生で皆が慌て、職場が騒然としていると、この基本的なプロセスになかなか入れません。突発事案に遭った時こそ、担当者であるあなたはまずゆっくりと呼吸し、落ち着いて解決パターンの行動に移りましょう。それで問題解決のスピードが大いに上がります。揺らぐ心をあえて「鈍」にし、手順に向けて腰を据えることが第一なのです。
◇撤退も優れた段取り
担当者として事業や対策を進める中、社会、地域の状況に予想外の変化が生じて、新たな見極めが必要となることもあります。今の施策の内容でこれ以上やっても人々が求めるような成果が見込めないと思ったら、戦略を中断するか、廃止する勇気も必要です。日本の役所はことのほか「撤退」が苦手です。議会が承認し、事業の予算がついてスタートすると、何がなんでも最後までやり抜かねばと思い込む担当者が多いのです。
でもそれは、誰がそう決めたのでしょう?
公金を使っているのですから、当初予測した効果が本当に出そうかどうかを常時予測し、検証しながら仕事を進めるべきなのです。予算調書案の作成から事業施行までは通常、半年近いタイムラグがあります。予算が付いても社会環境や地域事情が変わり、事業効果が見通せなくなる場合もあるでしょう。市民、議会に説明しながら事業内容を変更してもなお展開が難しいなら、無理やり実施する必要などないのです。
事業の撤退、縮小は決して罪悪ではなく、住民への背信行為でもありません。原資たる税は他の事業で生かせばよく、それが無理でも、最終的な予算「執行残」を常に悪や失敗と決めつけないことです。議会にも丁寧に事情や状況を説明すればよいのです。
◇「刀」は軽く握って
「想定外」に追い込まれた時こそ、自分の「刀」(仕事への取り組み方)は、軽く握りながら備える姿勢が大切です。これは管理職や経営陣になる前、担当者として業務に打ち込んでいる頃から会得しておくべきでしょう。仕事に没頭する自分と、ふと立ち止まり高い場所から仕事と自分を見つめるもう一人の自分。以前のコラムで説明した「二つの自分」を持ち、この2人が時折、会話をするのです。いずれか1人しかないと、業務に溺れて精神的に追い詰められたり、逆に高をくくってミスを重ねたりしますし、段取りが狂った時のスピーディーな軌道修正もうまくできません。
自分の仕事と自分自身を時折突き放して見る姿勢は、組織で働く者として、また将来経営陣に加わる者として、とても大事だと思います。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。