2022/令和4年
124日 (

コラム 【いま公務の現場では7】スペシャリスト活用への道 2022/04/27 17:00

人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

人事院企画法制課長 植村隆生氏

 4月上旬の参議院内閣委員会で、公務員制度担当相の経験もある自由民主党の有村治子議員から、博士号取得者を念頭に、わが国の公務員制度は専門性の高い職員を評価していないのではないか、との質問がありました。人事院の川本裕子総裁は「霞が関の人事管理、とりわけ総合職の人事管理は、ゼネラリスト重視の傾向」があるとの認識を示して「博士号を有する職員などについて、その専門性を尊重するような土壌づくりを進めてまいりたい」と答えました。

 前回のコラムで、若い世代(Z世代=1990年代後半~2010年代初頭生まれ)はスペシャリスト志向が強く、公務員の働き方とギャップが生じている点に触れました。この国会質疑も踏まえ、今回は公務員の専門性に焦点を当てます。

 なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆書が所属する機関の見解を代表するものではありません。

◇多くはスペシャリスト

 国家公務員の仕事は全国津々浦々、多種多様であり、専門性が求められる職種もたくさんあります。

 国家公務員の入口である採用試験は多様な業務に応じて細分化されています。大別すると総合職、一般職、専門職、経験者採用の四つですが、総合職や一般職は、採用対象官職に応じ、技術系を中心に多数の試験区分に分かれています。専門職には、刑務官や労働基準監督官、海上保安学校学生など16種類の採用試験があります。このほか、医系技官のように採用試験でなく選考採用される道もあります。

 また、職員が任用される職務は「標準的な官職を定める政令」により30種類に分類され、給与(俸給表)は「一般職の職員の給与に関する法律」で職務に応じて行政や税務、公安、海事など17種類が適用されます。

 このように、国家公務員の仕事は専門分野ごとに細分化され、多くの職員は採用から定年まで特定の分野で働く専門家(スペシャリスト)であることが分かります。

 なお、国家公務員の採用試験は種類や区分ごとに受験資格(年齢や学歴)が定められていますが、総合職の大学院卒者試験など一部を除くと、学歴は受験資格ではありません。例えば、高卒者でも年齢要件を満たせば総合職の大卒者試験を受験可能です。これは、受験生の学歴よりも採用試験に合格することが能力実証の主要な手段とされているためです。

 部内育成に重点が置かれるメンバーシップ型の人事慣行の下、採用試験により公務員として必要な基礎的な能力や知識、将来の成長可能性があると判定された者が、採用後の業務や研修を通じて、それぞれの行政分野で専門的な知識を磨き、経験を身に付けていくことになります。

◇総合職事務系はゼネラリスト

 一方、ゼネラリストとして管理・育成される職員の代表格が、霞が関の中枢で政策の企画立案を担う総合職、とりわけ事務系の職員です。

 冒頭の国会質疑とも関係しますが、四半世紀前に国家公務員の人事管理も課題とされた「橋本行革」の際、諸外国と比べて日本の公務員は学歴が低いとの指摘がありました。国内外の大学院で学位(修士・博士)を取得した人材の採用拡大が行政改革会議の最終報告(1997年)で提言されています。

 しかし、当時の各省庁は院卒者の採用に前向きではなく、「業務に必要な知識は採用後に身に付ければよい」「伸び代のある若い人材が必要」と主張しました。その背景には、幹部候補生はゼネラリストとして育てるとの一貫した方針があります。特定の分野の専門性を高めるよりも、1~2年ごとにポストを異動させて多様な分野の経験を積ませることが重視されます。

 それに加えて、当時のある省の人事企画官は「役所の仕事にはツメとサバキがあるが、キャリア官僚の仕事はサバキ(利害調整)ばかりで、ツメ(政策作り)に割く時間がない」と自戒を込めて発言していました。連日、利害関係の調整業務に忙殺されて政策をじっくり考える余裕がない状況は、現在でも変わらないどころか、政治主導の下でその傾向はさらに強まっているように見えます。

 こうした実態を見ると、総合職事務系職員にとっての「専門性」は、政策や制度に精通していることよりも、省内外に幅広い人脈を持ち、政治家らからの信頼が厚く、無理難題も的確にさばき、政策を前に進めるツボを心得ているといった「サバキ能力」を意味していると言えそうです。

◇専門性生かせるキャリアパスを

 博士号取得者などの専門人材には、総合職事務系であっても高い専門性を生かしてスペシャリストとして公務に貢献することが期待されます。そのための土壌として、スペシャリストとしてのキャリアパスを整備するとともに、ジョブ型の仕組みを導入し、ポストごとの業務内容と必要なスキル(学位や資格)を示して公募することが考えられます。専門性を客観的に評価する仕組みも必要となるでしょう。

 現在、政府がEBPM(証拠に基づく政策立案)を推進する中で、必要な統計などのデータを整備して政策部局に提供する統計部局やデータ管理部局の重要性は高まっています。また、公文書管理の重要性に鑑み、今後は日本の官庁でも、大学院などで専門知識を学び、国立公文書館などによる「アーキビスト」の認証を受けた専門家を文書管理に当たらせることが期待されています。こうした分野は総合職事務系でのスペシャリスト活用の有力な候補になると思います。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【いま公務の現場では】

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