2022/令和4年
105日 (

コラム 【地方議員の視点6】議員の行政視察って何?(海外編) 2022/06/03 10:00

甲府市議会議員 神山玄太氏

甲府市議会議員 神山玄太

 ここまで2回にわたり「議員の行政視察って何?(国内編)」でした。今回は、もちろん海外編です。

◇国内と異なるアプローチ

 「やっぱり議員は海外視察をしているんだ」と思われるかもしれません。そうです、私は海外視察をしています。

 国内の行政視察の場は「答え合わせ」という感覚だとお伝えしましたが、海外では違います。国が違えば社会の仕組みや法体系、価値観、宗教感が全く別です。政策を考える上で基盤が異なり、仮に日本と同じ行政課題を解決するための政策展開であっても、アプローチが大きく異なります。だからこそ、海外の事例を調査すれば「新しい気付き」を得られるのです。

◇スウェーデンでの「気付き」

 北欧諸国は子育て支援先進国です。私も若くして議員になったため、北欧諸国の子育て支援の取り組みにずっと関心を持っていました。事例を伝える書籍などは多々読んできましたが、現地を見て、感じたい、意見交換したいと思い、視察することにしました。

 2013年10月に、スウェーデンのソーレンチューナ市を訪問しました。首都ストックホルムから列車に揺られて30分程度の距離にあります。この時は、現地在住の日本人にコーディネートをお願いし、甲府市と環境が似ている都市を選びました。妊娠してから保育園入園までをサポートするファミリーセンターや保育園(就学前教育)をテーマに、現地視察や関係者との意見交換をしてきました。

 ファミリーセンターを視察した時、最初に目に入ってきたのは、1歳くらいの子どもと父親が2人でプログラムに参加していた姿でした。日本では幼少の子どもと一緒にいるのは母親というケースがほとんどですが、ここでは、父と子だけ、父母と子どもというように、母親だけが子連れで来ているわけではありません。これが北欧の子育て支援の現場だと印象深かったのを覚えています。

ソーレンチューナ市のファミリーセンターでの保育風景

 子どもと2人連れの父親に話を聞くと「ファミリーセンターがなくても育児の不安はないが、子どもにとっては退屈な毎日になるだろう」と言っていたのが印象的でした。子育ては「子どもにとってどうか」という部分に重きが置かれていると強く感じました。2人だけで来ていた理由は「妻は大学の研究者で、今は論文を書いているから私が育児休暇を取っている」からで、協力し合って子育てしているとのことでした。

 スウェーデンの育児休暇は、夫婦の片方しか取得しないと最大日数を確保できないそうで、夫婦それぞれで取ると休暇日数がさらにプラスされるという説明を受けました。しかも、分割して必要な時に使えるため、まさに社会で育児、子育てを支援していると実感しました。

◇育休取得の背景に雇用環境

 現地に赴いて視察する利点は、視察項目に関したさまざまな話が聞けるということです。日本だって育児休暇の仕組みはあるのに男性の取得率は低いままです。どうしてそんな違いが生じるのだろうと思っていました。視察中に話を聞く中で、その要因は、育児休暇や子育て支援の領域ではなく、雇用環境にあるのではないかと気付くことがありました。北欧には、終身雇用という概念はほとんどなく、公民問わず雇用が流動的と言います。大手企業は新卒者よりも経験者を雇いたいと考えています。ひっきりなしに中途採用の求人があり、仮に育児休暇取得によって労働力が不足しても、その企業で働きたい人がいるから企業活動に影響は出ません。企業にとっても、そこで働こうと思っている人にとっても、チャンスがあるわけです。

 日本にいて書籍の情報だけで北欧の子育て支援環境がすごいと思っていても、裏付けとなる雇用環境まで思い至ることはないかもしれません。子育て支援の仕組みが機能している背景に、雇用環境が影響しているのではないかと気付いたのは、実際に海外視察で現地に触れたからこそです。

 海外視察は、ソーレンチューナ市以外にも、米国ではワシントン州シアトル市や甲府の姉妹都市のアイオア州デモイン市、オランダのアーネム市、カンボジアの首都プノンペン、シンガポールなど、さまざまな国にいろいろなテーマで訪れました。

◇海外視察の必要性

 海外視察にも国内の視察と同じようにルールがあります。甲府市議会のルールは議会の「申し合わせ事項」で定めており、該当部分を見ると「【経過措置】海外視察については、当面(今任期中)凍結するものとする」とされています。

 「え、凍結って!」Σ(゜ω゜)!

 思わず、一人ツッコミしてしまいました。甲府市議会は申し合わせ事項で海外視察のルールを定めていますが、2003年から運用を凍結しており、公費での海外視察はできません。つまり私のこれまでの海外視察はすべて「自腹」だったのです。

 私の場合は議会のルールで凍結されているため、結果として自己負担ですが、それでも行く必要性は大いにあります。今回の例だけでなく、現地だからこそ気が付く点もありますし、現地だからこそ可能な意見交換もあります。自腹で行くのは大変ですが、いい点を挙げるとすると、視察先の都市でサッカーを見たり、ワインを飲んだりして観光しても、市民から怒られることはありません。せっかく時間をかけて海外まで行くのですから、視察だけでなく、多くの文化、歴史、コミュニティーに触れてください。得るものが、きっとたくさんあることでしょう。(了)

神山玄太・視察/研修報告書へのリンク
→ http://blog.livedoor.jp/genta_kamiyama/archives/52390433.html

◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、甲府に戻る。2010年、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。11年に甲府市議に初当選。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。15年の甲府市長選挙では次点で落選。甲府市議に2期目の当選後、17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。19年4月から3期目の甲府市議。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。

【地方議員の視点】

同一カテゴリー記事

  • 【ナッジ入門編10】実践7:バイアスを考える 2022/10/04 17:00

     行政現場でナッジを活用したケースを、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は、岡山県真庭市の環境関連の試みです。…真庭市は職員有志でナッジを学び、情報交換をしています。今回は、環境課で取り組んだナッジの事例を紹介します。真庭市産業観光部農業振興課 藤田浩史

  • 【地域のよさを伝える10】営業マインドを持って 2022/09/22 11:00

     本連載は10回目を迎えました。ここで一区切りにしたいと思います。次回から、シティプロモーション自治体等連絡協議会が実施した「全国シティプロモーション実態調査」を紹介します。…今回は記念すべき10回目なので、基本的な注意点に言及します。関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【いま公務の現場では9】人事院の報告の背景 2022/09/12 11:00

     国の内外を問わず社会が急速に変化し、行政が抱える課題は複雑化・高度化しています。その中で、政府が国民に質の高い行政サービスを提供するためには、公務組織が国民本位の能率的で活力のあるサステナブル(持続可能)な組織であり続けなければなりません。人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

  • 【地方議員の視点8】価値観変えた名山指定 2022/09/01 11:00

     住民の価値観を変えることも、議会の役割の一つでしょう。議会で課題として取り上げ、議論を重ねる中でそれに対する新たな見方や捉え方を住民に提示し、新たな価値として受け止めてもらえば、生活を豊かにしていくきっかけになると考えます。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【地域のよさを伝える9】セグメント化の意識を 2022/08/19 11:00

     実は、地方自治体のシティプロモーションの大半は「可もない不可もないプロモーション」です。担当者は「今は成果が出ていないが、あと数年頑張れば出るだろう」という思いで取り組みを続けます。これが「可もない不可もないプロモーション」です。…今回はシティプロモーションの重要な概念(用語)である「セグメント化」(セグメンテーション)を紹介します。 関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【公務員の段取り力10】笑いとハキハキの勧め 2022/08/08 00:00

     厳しい仕事の中でも賢い職場の過ごし方があります。できるだけ声を上げて笑う癖をつけることです。たかが「笑い」と侮ることなかれ。笑いはあなたと職場の雰囲気を変える万能薬で、良い結果や成果を生む源になります。つらくても思い詰めない、明るい前向きな指向、その「気」を持つことが、あなたとあなたの職場を変えます。笑い声は誰が発していても、そこで働く人々の救世主になるのです。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【ナッジ入門編9】実践6:複合機の印刷枚数削減 2022/07/25 15:00

     行政現場でナッジを活用したケースを、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は、堺市によるペーパーレスを促した事例です。同市は2021年8月、全国の自治体初の環境分野特化型ナッジ・ユニットとして「堺市環境行動デザインチームSEEDs」を設けました。環境局有志職員で構成するプロジェクトチームで、20~30代の若手職員中心の14人のメンバーが、環境施策へのナッジの活用や庁内外へのナッジの普及に取り組んでいます。堺市環境行動デザインチームSEEDs 前川裕輔

  • 【地方議員の視点7】議会機能で市民意見を反映 2022/07/13 16:00

     新型コロナウイルスの感染は、2020年1月15日に国内で初めて、同3月6日に山梨県内で初めて確認されました。その時、県内の市町村では3月定例会の真っただ中でした。そんな中、甲府市議会は、全国の多くの地方議会で決めた自粛ではなく、積極的に議会を開き、コロナ対策に議会として関わっていくと判断しました。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【公務員の段取り力9】体と心を健やかに 2022/06/30 15:00

     「生業(なりわい)」とは分かりやすい言葉で、仕事で身を立て、生きていくことを意味します。ですからどんなに業務に没頭し全身全霊で注力しても、決して心身の健康を侵してはなりません。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【いま公務の現場では8】デジタル庁と民間人材の活用 2022/06/22 11:00

     民間人材を円滑に「採用」することはもちろん大事ですが、それ以上に、採用後の「活用」には課題があるようです。今回はデジタル庁と民間人材の活用がテーマです。人事院事務総局企画法制課長 植村隆生