コラム 【いま公務の現場では8】デジタル庁と民間人材の活用 2022/06/22 11:00
人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

政府のデジタル臨時行政調査会が6月3日に取りまとめた「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」の中に、デジタル人材を含む民間人材の採用円滑化について「引き続き、デジタル庁・人事院・内閣人事局の連携により、定期的に
人事院は昨年8月の「公務員人事管理に関する報告」で「公務と民間の間の流動性を高め、民間の知見を積極的に公務に取り入れていくことが重要」との基本的な認識を表明しました。今後もスピーディに必要な対応を検討していくことになります。
民間人材を円滑に「採用」することはもちろん大事ですが、それ以上に、採用後の「活用」には課題があるようです。今回はデジタル庁と民間人材の活用がテーマです。
なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆者が所属する機関の見解を代表するものではありません。
◇庁内の「混乱」?
メディアの報道を見ていると、鳴り物入りで発足した同庁の評判が芳しくありません。最近の記事には、「混乱」「迷走」「霞が関が造反」「退潮」といったおどろおどろしい見出しが並んでいます。
多くのメディアは、目玉政策の一つである事業所データの整備事業が中断されたことや、「マイナ保険証」を利用した場合の初診料の一部値上げなど、主に政策面での混乱に焦点を当てていますが、私が特に気になるのは同庁で働く民間人材に関する報道です。
同庁は、以前このコラムでも触れたように、官庁と民間企業との間で職員が行き来する「回転ドア」の人事を掲げています。発足時には500人の職員のうち民間人材が非常勤採用も含め約200人を占めていました。現在はさらに増えているようです。こうした組織の肝とも言える人材の流動性についても「庁内では民間人材との融合で混乱が生じている」「民間出身者の退職が相次いでいる」「昨年度末までに10人以上の若手官僚が退職し、大手IT企業などに転職した」といったネガティブな報道が流れています。
実際、同庁に職員を出向させている府省からも「混乱の原因は、民間人材に民間のやり方をそのまま持ち込ませていること。霞が関のやり方に従ってもらわないと、組織としての力や一体性は発揮できない」といった声が聞こえます。
◇「小さく生んで大きく育てる」
とはいえ、こうした声を上げる霞が関の府省も、民間人材が職員の3分の1を占める同庁と規模は違うものの、多かれ少なかれ同じような課題を抱えています。
近年、課長補佐や係長クラスの中途離職者の増加傾向もあって、各府省は民間人材の採用者数を増やしています。しかし、現状では、求める水準の民間人材を必要な人数確保することに精一杯で、採用後に彼らが能力を存分に発揮して活躍できる環境整備までは必ずしも手が届いていないようです。実際、各府省が採用した民間人材が早々に見切りを付けて離職したという話は少なくありません。
昨年5月に自民党行政改革推進本部公務員制度改革プロジェクトチームが政府に提出した「信頼され魅力ある公務員制度を目指して」と題する提言は、同庁の組織や人事に関する挑戦的な試みを「時代に適した官僚機構改革」とし、「(行政組織には)デジタルの知識や経験を十分に備えた職員も不足している。そのため、デジタル庁は民間人材を大量採用し、職位に
同庁は昨年9月1日に発足して、まだ1年もたっていません。試行錯誤があって当然でしょう。各府省は、この「産みの苦しみ」を他山の石としつつ、今後、政府方針で2022年度から各府省が検討に着手することとされた「人材戦略」を立案していく中で、民間人材の「戦力化」も意識的に体系付けていくことが求められます。
◇民間人材からの提言
5月下旬、民間企業から霞が関の各府省に転職した国家公務員の有志グループが中途採用に関する提言を出しました。中途採用者のアンケート結果を踏まえて現在の課題を整理した上で、各府省の中途採用の規模やスタンスに応じて異なる対応策を提案しており、中途採用者を積極的に活用するための方策にも踏み込んでいます。
過去にも現職の公務員やOBからの提案は数多くありますが、中途採用で霞が関に入って働いている民間人材有志による提言は珍しく、視点がユニークです。各府省が人材戦略を考えていく上でも参考になるのではないでしょうか。(了)
- ◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
- 1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。