2023/令和5年
66日 (

コラム 【公務員の段取り力9】体と心を健やかに 2022/06/30 15:00

藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹氏

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

◇健康の段取り

 あえて申し上げれば、どの職業でも仕事は生きていくため、生活の糧を得るための手だてです。毎日仕事が面白く、体力にモノを言わせて徹底的に業務に打ち込めば、充実感を覚えることができます。その姿は美しいのですが、仕事はあくまで生活のためです。

 「生業(なりわい)」とは分かりやすい言葉で、仕事で身を立て、生きていくことを意味します。ですからどんなに業務に没頭し全身全霊で注力しても、決して心身の健康を侵してはなりません。

 仕事に全力で入り込んでいる時は、自身の健康がおろそかになっていることに、大抵気付きません。ずっと交感神経が張りっ放しで精力がみなぎっている間は、心身の疲労をあまり意識しません。それでだんだん「張っている」という感覚がまひしてきます。連日の残業、休日の出勤、在宅勤務での作業、移動中の書類確認や打ち合わせなど、いつでもどこでも緊張ばかりの暮らし方は、少しずつ確実にあなたの健康をむしばんでいきます。

 ぴんと張った糸は、いずれは切れます。「張り切っている」というのはこの状態です。基礎体力には個人差がありますから、他者と同じように自分も頑張り続けられるとは限りません。そしてついに体調を崩して倒れます。長い期間を経てその状況に陥るので、回復にも長い期間が必要となるのは当然です。

 人事課も心配し、本人が相当程度まで持ち直しても、再び元の部署に戻るケースは少ないでしょう。優秀で将来を嘱望され、それを一身に受けて懸命に働いたのに、過労やストレス続きで心身の健康を崩して長期療養となった同僚や若手を、私も何人か見てきました。その後はなかなか以前のような職場に復帰できなくなりました。本人はもちろん、組織としても地域としても非常に残念なことです。

 自分自身のリスク管理として、常に「目いっぱい」という状態は警戒すべきであり、真面目でひたむきな人こそ注意が必要です。優れた人の貴い力を組織と地域で生かせないのは行政として大きな損失ですし、その穴埋めも難しいのです。

◇効率的な暮らしの段取り

 高い集中力で仕事を進めるコツは、何といっても毎日よく眠ることです。人が一つの事案に集中できる時間は、どんなに長くてもせいぜい数十分だと言われます。睡眠が不足するとこの時間がさらに短くなるのは、誰もが経験していることでしょう。長時間勤務が続き、寝不足が重なれば、どんなに優秀な人でも午前中は大して仕事になりません。

 私の経験でも、長期間延々と続く超過勤務の業務効率の悪さは相当なものです。発想力が低下し、明るい思考もできなくなります。出勤さえしていればいいわけではありません。生産性が大きく下がるのです。多忙な中でも手早く仕事を進め、早く帰宅して夕食を楽しみ、ぐっすりと眠る習慣を極力つくりましょう。毎日が無理なら、せめて1週間に1日でも、夜たっぷり眠る日を平日のどこかにつくる。それが「効率的な暮らしの段取り」であり、それだけでも日々の仕事の生産力は変わります。

 仕事の進め方の大切なコツの一つとして、常時意識してリラックスの時間や睡眠を確保する努力をすべきです。これが、職場経営の面では管理職のタイムマネジメントの基本です。

◇小さな取り組みの積み重ね

 私は今、市役所で働き方改革にも関わっており、職員には、毎日15分早く残業を切り上げようと言っています。机上の片付けや着替え、わずかな談笑でも、15分程度はすぐにたってしまいます。でもそれならすぐにできるはず。毎夕時計を見て、15分早く退庁する。毎日時間を忘れて働くなど、聞こえはいいですが賢明とは言えません。平時にもかかわらず「寝食を忘れて」といった意識は、組織においてはもってのほか。自分の時間管理ができていない証拠であり、将来管理職になる資格も疑わしいと思います。

 15分早く帰れたら、次は30分、その次は45分、そして1時間早く引き上げる段取りへと、徐々にステップアップしていきます。小さなことから着実に取り組み、要領よく仕事を仕上げ、来る日も来る日も残業、また残業という悪しき習慣から抜け出しましょう。

 施策や改革のアイデアが、自宅のトイレの中、入浴中、寝入りばなや目覚めの時にパッとひらめき、思わず声を上げることが私にもあります。毎日、どこにいても仕事のことを忘れられないのが公務員です。激務に没頭している時より、のどかな休息中に頭に浮かぶことも多いのではないでしょうか。定時退庁が無理なら、せめて毎日、ちょっとずつでも時間外勤務を減らすことです。職場よりも良い発想が生まれる環境が、他にある場合もあります。(了)

◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。

【公務員の段取り力】

同一カテゴリー記事

  • 【地方議会めぐる新潮流3】続・オンラインで質問可能に 2023/06/02 12:30

     第33次地方制度調査会の答申を受け、総務省は、本会議での一般質問について出席が困難な事情で議場にいない議員がオンラインによる方法を取っても差し支えないとする新たな判断を示しました。2月7日の自治行政局行政課長通知に盛り込まれています。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【変わり始めた公務組織3】勤務環境改善への課題 2023/05/23 11:00

     先日、ある県庁の人事担当者から、地方公務員の今後の新しい働き方や終身雇用にとらわれない雇用形態などをテーマにした講演を依頼され、知事の関心が強いジョブ型雇用のほか、公務と民間をまたぐ人材交流や副業・兼業について話をしました。彼らがこうしたトピックを取り上げるのは、地方自治体でも人材確保の苦労や若手職員の離職など国と似た状況があるからです。

  • 【職場が輝く知恵とワザ3】職場経営の学び方 2023/05/11 11:00

     事務事業の目的に則した見直しと改善は、What?(何をしている)より、Why?(なぜしている)から始まります。

  • 【行政×ナッジの可能性2】自治体職員×ナッジ 2023/04/26 11:00

     2回目のテーマは「自治体職員×ナッジ」です。自治体職員が学ぶ意味や、業務に活用するとどんな良いことがあるのか、宮城県総務部行政経営推進課に勤務し、東北初の自治体ナッジユニット「宮城県行動デザインチーム」を立ち上げた伊豆勇紀さんにお話を伺います。PolicyGarage事務局/慶応大学看護医療学部特任助教 赤塚永貴

  • 【シティプロモーション再考3】意識するのは内か外か 2023/04/14 11:00

     前回はシティプロモーションに関する条例の有無を確認しました。総合計画、総合戦略などへの「シティプロモーション」という言葉の明記の有無も紹介しています。今回も幾つかトピックスを挙げます。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【変わり始めた公務組織2】民間人材の採用と定着 2023/04/01 00:00

     公務の現場では、民間企業で働いた経験のある職員が年々増えています。民間から採用されたいわゆる中途や任期付き、非常勤の職員です。官民交流により民間から役所に派遣されたり、逆に役所から民間に出向したりする経験を持つ職員もいます。人事院給与局給与第一課長(前事務総局企画法制課長)植村隆生

  • 【地方議会めぐる新潮流2】オンラインで質問可能に 2023/03/17 10:00

     総務省は2月7日、自治行政局行政課長通知を出し、本会議での一般質問について、出席が困難な事情で議場にいない議員がオンラインによる方法を取ることは差し支えないと新たな判断を示しました。これまで委員会でのみ可能とされたオンラインによる会議運営が、一部ですが本会議でもできるようになりました。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【職場が輝く知恵とワザ2】言葉で人は動き出す 2023/03/06 10:00

     リーダーとして自分の仕事を見せて語り、相手をうならせるには、自分自身が使う言葉の力が物を言います。言葉による伝わり方にはプロセスがあります。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【シティプロモーション再考2】根拠は何か 2023/02/21 11:00

     今回から全国の自治体を対象としたシティプロモーションに関するアンケート調査の結果を記します。注目すべき設問と回答を抽出し、私の見解を述べます。それぞれを確認した後で、読者なりに考えていただけたら幸いです。関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【新連載】【行政×ナッジの可能性1】自治体での広がり 2023/02/08 17:00

     新連載「行政×ナッジの可能性」は、ナッジを現場にもう一歩広め「毎日の業務に使ってみたい!」という意欲を後押しするのが狙いです。行政分野の関心事・ホットトピックスをテーマとして取り上げ、それらに関わる事業・業務や課題解決にどのように使えるのか考えていきたいと思います。PolicyGarage事務局/慶応大学看護医療学部特任助教 赤塚永貴