コラム 【地方議員の視点7】議会機能で市民意見を反映 2022/07/13 16:00

甲府市議会議員 神山玄太
新型コロナウイルスの感染は、2020年1月15日に国内で初めて、同3月6日に山梨県内で初めて確認されました。その時、県内の市町村では3月定例会の真っただ中でした。当時を思い出すと、3月定例会は感染拡大に留意しながら何とかやり切ったという感じでしたが、既に学校は当時の首相による唐突な要請で休校措置が取られていましたし、その後の4月7日に政府は「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言を7都府県に発令し、さらに16日には対象地域を全国に広げました。
対応に苦慮していたのが地方議会で、6月定例会が目前に迫る中、通常通り開催するのかどうか、判断しなくてはなりませんでした。全国の地方議会は質問中止や会期短縮、議場への議員の入れ替え制で「蜜」を避けるなど、さまざまな対応策を講じていました。
◇コロナ対策に積極的関与
そんな中、甲府市議会は、全国の多くの地方議会で決めた自粛ではなく、積極的に議会を開き、コロナ対策に議会として関わっていくと判断しました。5月1日に6月定例会開会予定日前日までの39日間を会期とする20年5月臨時会を開きました。その後の6月定例会も会期延長し、臨時会と合わせて64日間にわたる会期でコロナ禍に対応する方策を決定しました。
具体的には、甲府市議会に「新型コロナウイルス感染症対策特別委員会」を設置し、同委が中心となって「新型コロナウイルス感染症に伴う経済対策及び生活支援策」をまとめ、議会として政策提言しました。通常の委員会運営では、執行部職員に委員会への出席を依頼し、執行部への質問を通じてやり取りをすることがほとんどですが、感染症がまん延し始めていたその当時、執行部は感染症への対応が急務なので、同委への出席は求めず、議員だけで意見を交わし、政策提言を練っていきました。
まず、市民から寄せられた困りごとや要望、課題などを踏まえ、全議員に政策提言につながる意見を提出してもらいました。その数は106項目にも及び、「議員ってさまざまなネットワークで多くの声を聞きている」と改めて感じました。緊急事態が起きている時、議会が合議的に意思決定するのは難しい局面もあります。とはいえ、このように広く市民の声を集めることができる議会の強みも再認識しました。
◇特委が提言
この106項目の意見を基に、同委の委員間で討議し、その内容を踏まえて正副委員長で案を作成。再び同委で検討する作業を繰り返しました。私は副委員長として、委員長とともに提言案の作成に関わりました。

これは、20年5月臨時会本会議で「新型コロナウイルス感染症に伴う経済対策及び生活支援策」提言に関する決議として全会一致で可決。市長に申し入れました。同委で、市の財政状況や先の感染拡大状況も見据えた上で実施可能な中身になるよう、想定される予算規模や支援内容まで具体的に検討しました。しかし、予算の編成権は市長にのみ認められているため、決議として議決した提言は政策項目の列挙にとどめ、同時に本会議で特別委員会中間報告として財政措置などの具体的内容を説明し、決議を補完する工夫もしました。
「新型コロナウイルス感染症に伴う経済対策及び生活支援策」提言に関する決議へのリンク
→ https://www.city.kofu.yamanashi.jp/shise/gikai/honnkaigi/documents/kougi_9.pdf
新型コロナウイルス感染症対策特別委員会中間報告へのリンク
→ http://blog.livedoor.jp/genta_kamiyama/archives/52740260.html
同委は、現在も甲府市議会に置かれており、議会の感染症対策の中核を担っています。
コロナ感染拡大初期に甲府市議会で他都市には見られなかった対応ができたのには幾つか理由がありました。
甲府市は19年度末で人口が約18万7000人と全国の中核市の中で人口が最も少ないですが、人口が約80万6000人(19年度末)の山梨県で人口の約4分の1を占めます。今でこそ国から「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」などの支援があるため、甲府市も踏み込んだ支援策を講じていますが、感染拡大初期は先が見通せない中、基金の取り崩しなどで自治体独自の予算措置をしなくてはならず、県内の市町村間の対応に差が目立ってきていました。
県内のある市で、全市民に1人1万円を支援する方針が打ち出されたとき、「甲府市は何もしてくれない」との市民の声が多数寄せられました。その都市は人口が約4万5000人で支援額は4億5000万円程度となりますが、甲府市で同じことをしようとしたら約19億円もかかってしまいます。19年度末の甲府市の財政調整基金残高は約25億円だったので、そのほとんどを使うことになってしまい、政策的には現実的ではありません。実際は甲府市も別途、きちんと支援策を講じていました。ただ市民の声が議員を動かし、結果として議会を動かすことにつながったと感じています。
◇変わる議会運営
また甲府市議会は19年の改選時に議長、副議長選挙で所信表明を導入し、両者が議会運営に当たる際の方針を明らかにした上で選ばれていたのも、議会として対応できた要因の一つだと思います。そのような過程で選ばれた議長だったからこそ、コロナ感染拡大という危機状況でも、責任を持って議員に議会活動をさせる決断ができたのでしょう。
コロナ禍に議会として対応した経験は、その後の議会運営を大きく変えることになりました。議会基本条例の制定やそれに伴う議会改革など、この間で大きな動きがありました。甲府市議会はコロナ感染症対応を通じ、市民と共に歩む議会とは何かを経験的に考え、実践し始めています。これついても、またご報告する機会を持ちたいと思います。(了)
(参考)5月臨時会から6月定例会の「議会だより」
→ https://www.city.kofu.yamanashi.jp/gijichosa/shise/gikai/koho/documents/5rinji.pdf
→ https://www.city.kofu.yamanashi.jp/gijichosa/shise/gikai/koho/documents/206.pdf
- ◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
- 1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、甲府に戻る。2010年、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。11年に甲府市議に初当選。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。15年の甲府市長選挙では次点で落選。甲府市議に2期目の当選後、17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。19年4月から3期目の甲府市議。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。