インタビュー 【トップインタビュー】町全体をアイデアの場に=後藤正和・徳島県神山町長 2022/07/26 08:30

徳島県の中央部に位置し、すだちの名産地で知られる神山町は、若手のIT人材が集まる地方創生の成功モデルとして注目を集める。人口約5200人の小さな町に全国から年間約3000人が視察に訪れており、現在5期目の後藤正和町長(ごとう・まさかず=72)は「若い人が自然豊かな場所で無限大のアイデアが出てくる『気づきの場』として、町全体を活用してほしい」と話す。
同町は、2004年にケーブルテレビの普及をきっかけとして、インターネット回線を佐那河内村と共同で整備。10年ごろには、都市圏のITベンチャー企業がテレワークの拠点として空き家を改築し、全国で初めてサテライトオフィスとして利用し始めた。
現在では、町を拠点に活躍する実業家らがクラウドファンディングや企業からの投資で資金を募り、全寮制の私立高等専門学校「神山まるごと高専」の開校を23年4月に目指している。人工知能(AI)など最先端の技術やデザインを学べる場にする考えで、「若い学生たちの力ですだちの収穫や林業、福祉などさまざまな分野でITが活用可能になればうれしい」と期待する。
町内には農業高校が1校あるのみ。高校進学のため家族ごと町外に引っ越さざるを得ないことが、人口減少の一因でもある。「教育機関の選択肢が一つ増えることで、子どもたちの将来が開けてくる。この効果は非常に大きい」と語る。
民間の力が多く流入する町だが、行政の在り方として「企業と適度な距離感を保っていくことは必要」と強調。過度な干渉は避け、民間に任せられる部分は極力委ねる方針で、「良い関係性の中で(民間の)アイデアや事業計画に対して町は協力を惜しまない」と心構えを語る。
悩みもある。21年は町外から120人が転入するなど移住者を多く受け入れているが、「住居が既に足りていない」。町は古民家や空き家の改修を進め、集合住宅なども建設しているが「時間や費用がかかる」と指摘する。
地元雇用の促進についても「一番は住まいだ」とし、「産業や企業が多い町ではないが、住まいさえあればネットで仕事ができる時代」と強調。「何らかの方法で住んでもらう(新たな)手だてが必要だ」としており、民間の力も借りられないか模索する。
〔町の自慢〕「自然も人情も豊かで、爽やかな気分になれるところ」
〔横顔〕町議を経て03年に初当選。「湯気が出るような炊きたてごはんにすだちを絞って食べるのが好き」
(了)
(2022年7月26日iJAMP配信)