コラム 【公務員の段取り力10】笑いとハキハキの勧め 2022/08/08 00:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
◇「笑い」は万能薬
厳しい仕事の中でも賢い職場の過ごし方があります。できるだけ声を上げて笑う癖をつけることです。たかが「笑い」と侮ることなかれ。笑いはあなたと職場の雰囲気を変える万能薬で、良い結果や成果を生む源になります。つらくても思い詰めない、明るい前向きな指向、その「気」を持つことが、あなたとあなたの職場を変えます。笑い声は誰が発していても、そこで働く人々の救世主になるのです。
人は感性と感情の動物です。気分を自ら変える習慣は、自分でつけることができます。行政経営で最大の成果を生むのは、笑いを交えた明るい会話の力=「笑談力」だと思います。笑いのある職場は思考が柔軟になり、アイデアが出やすくなります。仕事がスムーズに進んで成果が上がりやすくなり、次第に職場全体の生産力がアップしていきます。それはいつしか組織の外にも伝染します。明るいまちづくりの最初の一歩は、職員が声を上げて笑うことからです。
◇優しい言葉を使う習慣
以前の連載でも述べたように、事業を進める際は、常時小まめに連絡を取り合いましょう。相手が情報を持っていないという前提で伝えることが大事です。その際、感謝の気持ちも併せて相手に早く伝えることが肝心。「ありがとう!」と一言添えればいいのです。こうした気遣いと機敏さ、レスポンスの良さで、あなたは優しくてしかも優秀な人だという二つの評価を役所の内外で得ることになります。
優しい言葉が頻繁に飛び交う職場は元気で、新たな発想や課題解決案は多くなり、仕事の漏れや落ち度は少なくなります。その場、その座の雰囲気を明るくし、周囲の気持ちを和ませ、笑い、笑わせる。会話しやすい気持ちのいい空間を、明るく優しい言葉でまずあなたがつくるのです。管理職や経営陣など内外に大きな影響を与える立場になると、さらに組織経営の重要な要素になります。ですから、若いうちからやっておきましょう。
日々のわずかな心掛けで、必ずできるようになります。これが「職場の空気をつくる段取り」です。あなたや組織、地域住民にとって非常に優れた効果と成果を生んでいきます。
◇明るい言葉と豊かな表情
庁内だけでなく、丁寧に選んだ言葉による豊かな表現は、窓口業務や現場での住民説明・協議などの際でも不可欠です。行政は、サービス業の代表格。明るく分かりやすい説明とともに、真摯(しんし)な対話の中で、時には行政側の事情や、堅苦しい法制度の中身も説明しなければなりません。ですから言葉の選び方はもちろん、豊かな表情がとても大事です。
公務員は総じて融通の利かない職業だと思われているせいか、職員はクールで寡黙で表情がないと言われることがあります。しかしそんな評価を受けるような職員はもう落第でしょう。人々に寄り添い、向き合い、にこやかに誠実に語る訓練を、毎日少しずつしていきましょう。熱を帯びた明るく豊かな表情が公務員の必須条件であり、評価を上げるのです。
ただ、われわれにはサービスの提供(給付行政)ばかりでなく、時に公権力を行使して、地域、社会のルールを人々に守っていただく局面もあり(規制行政)、毅然とした態度でルール(法令など)の順守を住民にお願いしなくてはなりません。これは民間企業にはない役割です。公共の福祉を守るための厳しい表情も、時には求められる場合があります。気持ちの切り替えも必要になります。
◇説明はハキハキと
口頭で相手に趣旨や依頼内容を伝える場合、中身の簡明さや分かりやすさはもちろんですが、発声の明瞭さやトーン、大きさも重要です。役所の窓口には高齢の方々も多く訪れます。法制度の趣旨や手続きなどを口頭で説明する場合、口をちゃんと開け、元気な声で話しましょう。口調が丁寧でも発音が不明瞭だと相手は聞き取れません。その上、手続きが複雑だと相手はいら立ち、ついには怒り出します。あなたの段取りも台無しです。
苦情への対応も同様です。相手が興奮し怒っていると、こちらの回答や説明はどうしてもつぶやくような小声になりがちですが、それではいけません。声をきちんと出し、ハキハキと話しましょう。一通り丁寧に話を聞き、相手が少し落ち着いたところで、こちらの対応案などに触れます。まず役所として今できることを伝え、次にすぐにはできないことを説明します。相手はそれを求め、期待しています。
怒りの迫力に押され、臆してしまうと、結局相手の要請に応えられません。行政側の事情も理解されませんから、こちらの対応予定も狂ってしまいます。誠実に聞き、こちらに過ちや手違いがあればまず丁重におわびをします。そして答える際はよく聞こえる声で、行政用語でなく誰でも分かる言葉を選んで話すことです。
私は早口でよく失敗します。ゆっくりと話しましょう。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。