2023/令和5年
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コラム 【地域のよさを伝える9】セグメント化の意識を 2022/08/19 11:00

関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔

◇可も不可もないプロモーション

 これまでの連載で▽設定したメインターゲットに「何を」売り込むのか▽「何を」は差別化を意識できているのか▽メインターゲット志向になっているのか▽メインターゲットが共感するブランドメッセージを用意しているのか――などに言及しました。

 これまでの指摘に、何一つ新しい内容はありません。すべてマーケティングの教科書に記されています。すなわち教科書通りに進めていけばいいだけのことです。ところが、地方自治体が推進するシティプロモーションは、教科書から学ばない独り善がりの取り組みが多いのです。その結果、多くの場合は成果が導出されません(独り善がりがたまたま当たり、成果が得られる場合はあると思います)。 成果が上がらないから「失敗している」わけでもありません。もちろん明らかに失敗するケースがあります。しかし、担当者は失敗を認めたがりません。

 実は、地方自治体のシティプロモーションの大半は「可もない不可もないプロモーション」です。担当者は「今は成果が出ていないが、あと数年頑張れば出るだろう」という思いで取り組みを続けます。これが「可もない不可もないプロモーション」です。ところが数年後には担当者が異動し、別の担当者が受け持つケースが多々あります。新しい担当者も独り善がりになって「可もない不可もないプロモーション」が再生産されます。

 一人の担当者が在任中に見える成果が上がらない場合は「可もない不可もないプロモーション」と捉えた方がよいでしょう。

 今回はシティプロモーションの重要な概念(用語)である「セグメント化」(セグメンテーション)を紹介します。

◇セグメント化(セグメンテーション)

 セグメント化の定義は「対象層を年齢や職業、居住地など特定の条件によってグループ分けすること」です。図「定住人口の獲得を目指したセグメント化」は定住人口の獲得を目指した例の一つです。

図「定住人口の獲得を目指したセグメント化」(例示)

 地方自治体のシティプロモーションは、しばしば対象層を「30代子育て世帯」と明記しています。これではざっくりしすぎて、眠いプロモーションとなってしまいます。「眠い」とは「訴求効果がない」という意味です。少なくとも「30代子育て世帯・夫婦共働き・未就学児2人・世帯年収800万円」と、もう少し細かくセグメント化(細分化)していく必要があります。

 余談ですが、多くの自治体が「30代子育て世帯」と「親」世代にターゲットを絞っています。私は「親」よりも「子」にした方がよいと考えています。つまり「3~5歳児の世帯」です。「30代子育て世帯」では、子どもがいない世帯をはじめ、子どもが0歳から10歳前後まで幅広くなります。一方「3~5歳児の世帯」であれば、子育てサービスが限定され、親が何歳であろうと「3~5歳児」の話題で共通項が持てます。なぜ、多くのシティプロモーションは「親」に焦点を当てているのか不思議です。

◇セグメント化の4視点

 話を戻します。セグメント化には大きく分けて①人口統計的属性②地理的属性③心理的属性④行動的属性――の4視点があります。以下で簡単に説明します。

 ①人口統計的属性

 デモグラフィック属性とも言われます。対象層を年齢や性別、学歴、職業、所得(年収)、家族構成などに分ける手法です。図の例示は、このパターンを採用しています。簡単に分類できるのが特徴なので、最もよく活用されます。先に記した「30代子育て世帯・夫婦共働き・未就学児2人・世帯年収800万円」は、人口統計的属性によるセグメント化です。

 ②地理的属性

 ジオグラフィック属性とも称されます。例えば、居住地域、人口密度、人口規模、沿線、最寄り駅、周りの環境(例えば都市圏・郊外圏・地方圏)などが代表的な属性です。端的に言うと「どの地域から対象層を獲得するのか」という議論になります。このセグメント化もよく使われる手法です。

 私がシティプロモーションを進める場合、多くは①と②を活用します。これらのセグメント化を意識して分類しています。分類の中でメインターゲットを決定します。それに対して、ピンポイントでプロモーションを進めていくと、短期間である程度の成果が導出されます。

 私はあまり活用しませんが、セグメント化には残りの2視点があります。

 ③心理的属性

 サイコグラフィック属性とも言われます。対象層の性格、価値観、嗜好(しこう)、ライフスタイル、習い事、趣味などの条件でセグメント化するケースです。

 ④行動的属性

 ビヘイビアルとも言われます。例えば、対象層の商品に対する利用用途、利用頻度、選択基準など、行動に重きを置いたセグメント化です。

 繰り返しますが、私が進めるシティプロモーションは①と②が中心で、③と④を活用した経験はありません(③と④は複雑すぎて私の能力を超えているからです)。

 個人的には、視点①と②をしっかりやっていけば、シティプロモーションはある程度の成果が上がると経験的に実感しています。

 最後になりますが、セグメント化のポイントは「細かく分けすぎないこと」です。セグメント化に取り組むと、意外と面白く、ついつい細かく分けすぎる傾向があります。しかし、細かくすればするほど複雑になり、対象層の「数」が限られます。その結果、期待していた成果が得られないことが多々あります。そこで、図で示したように、細かく分けすぎず、ざっくりしすぎない程度のセグメント化でよいと考えています。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【地域のよさを伝える】

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