コラム 【地方議員の視点8】価値観変えた名山指定 2022/09/01 11:00

甲府市議会議員 神山玄太
「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ため、8月11日が「山の日」と定められました。私が住む山梨県は言うまでもなく山に囲まれた県で、総面積の約86%を山地が占めています。見渡す限り、山!というのが私の日々の暮らしの風景です。
そんな環境ではもちろん、議会質問でも数多くの「山」にまつわる話題が出てきます。森林整備や林道・登山道整備はもちろん、水源林保全、鳥獣害対策や松くい虫対策まで、さまざまな課題が取り上げられています。
◇甲府名山の制定
「体力と心のリフレッシュとして、山の都甲府市の特性を生かし、山梨百名山ならぬ甲府周辺五十名山を指定してはいかがでしょうか」。14年6月の定例会市政一般質問で甲府市議会が誇るアルピニストである岡政吉議員(日本国内だけでなく世界の名峰も数多く踏破)がこんな提案をしました。
これを聞いていた私は「五十名山!?」「周りに山はたくさんあるけれど、そんなにたくさん山の名前は知らない」「面白い視点で地域資源を捉えて質問するなあ」という程度の受け止めでした。しかしこの質問で推進された取り組みをきっかけに私は山登りにはまっていくのでした。
日本には小説家・登山家の深田久弥氏が選定した日本百名山があり、山梨県には一般公募と市町村推薦から選定した山梨百名山があります。この時の市側の答弁は「(県が発行する)山梨百名山手帳を活用し、まずは本市にある10の名山について、市民や登山客に対し、魅力ある甲府の山の情報を発信してまいりたい」とされるにとどまりました。その後、何度も質問と提言が繰り返され、17年9月の定例会市政一般質問で「こうふ開府500年記念事業の一環として事業化に向け、甲府の名山の選定委員会を設置し、広く市民に候補となる山を募集し、決定していきたい」という答弁があり、甲府名山指定の事業化が決まりました。

そして19年3月、武田信玄公とその二十四将にちなんだ25の山を甲府名山に選定。市街地周辺にあるハイキングを楽しめる里山から市最高峰の標高2599メートルの金峰山までさまざまな山が並びました。
◇親しむ山にパラダイムチェンジ
名山選定とともに「甲府名山手帳」も発行され、25山を制覇すると「登頂達成記念状」が交付されるため、私もトライしました。
私の住まいの裏にも名山に指定された山があります。子どもの頃から山は身近な存在でした。ただ、実際に登山をするとまた新たな価値に気付かされます。何といっても山頂からの眺めは最高で、そこでしか目にすることができないぜいたくで特別な景色です。山行中も木々の香りや鳥の鳴き声で心穏やかになり、日常生活の喧騒(けんそう)を忘れさせてくれる効果もあります。また自らの力だけで登り切らなくてはならないため、自分の体力に合った達成感も味わうことができます。
住民の価値観を変えることも、議会の役割の一つでしょう。議会で課題として取り上げ、議論を重ねる中でそれに対する新たな見方や捉え方を住民に提示し、新たな価値として受け止めてもらえば、生活を豊かにしていくきっかけになると考えます。
議会でのやり取りがきっかけで登山を始めましたが、それまでの見る山から親しむ山にパラダイムチェンジが起こり、今ではすっかりのめり込んでいます。今シーズンは、富士山、北岳、間ノ岳と、山梨県の三大高所にして、日本の標高第1~3位を楽しみました。
実際に経験してみると、登山道の危険箇所や携帯の電波整備が不十分な場所など、多くの政策課題が目に付きます。登山と観光を結び付ければ新たな交流人口を生むことも期待できます。
こんな可能性を感じて私も21年12月の本会議市政一般質問で登山と観光をつなげる提案をしました。その結果、登山者を観光スポットへ誘引する機能を備えたスマートフォンアプリとの連携が検討され、今年の7月30日から甲府×YAMAP「山のぼり・まち歩き」キャンペーンとして事業が始まりました。10月30日までの期間限定で、登山用スマートフォンアプリ「YAMAP(ヤマップ)」に掲載の対象の山や観光施設などを訪れると、デジタルバッジを獲得できます。5種類中3種類以上入手するとオリジナル手拭いがもらえます。手拭いの可愛いデザインが好評で、私もゲットしました。
地方議会では生活に身近な議題が多く取り上げられますが、日常生活で当たり前と思っていることでも議論を重ねれば新たな価値を提示できます。甲府名山手帳も増刷を重ね、1万部までになっているそうです。見る山から親しむ山に、多くの住民が行動変容を起こしたのかもしれません。夏でも涼しいのが山のいいところです。甲府にお越しの際は、ぜひ山々に親しんでいただき、オリジナル手拭いを手に入れてください。(了)
甲府名山へのリンク
→ https://www.city.kofu.yamanashi.jp/shinrin/kofumeizan.html
YAMAP特集記事へのリンク
→ https://yamap.com/magazine/36852
- ◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
- 1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、甲府に戻る。2010年、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。11年に甲府市議に初当選。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。15年の甲府市長選挙では次点で落選。甲府市議に2期目の当選後、17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。19年4月から3期目の甲府市議。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。