コラム 【地域のよさを伝える10】営業マインドを持って 2022/09/22 11:00
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関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔
本連載は10回目を迎えました。ここで一区切りにしたいと思います。次回から、シティプロモーション自治体等連絡協議会(https://www.citypromotion.jp/)が実施した「全国シティプロモーション実態調査」を紹介します。同協議会で私は顧問に就いています。実際は「何でも屋」(なんちゃって顧問)という感じですが、キャラクターに合っていると自認しています。
全国の地方自治体を対象にしたシティプロモーション関係の調査は少ないのが現状です。少ないというより、私が調べた範囲では一つしか見当たりません。その回答率は約9%です。
今回の調査は1718団体が対象です(都道府県、特別区は除外)。有効回答数は475団体でした。回答率は27.6%と3割弱。もう少し高めたかったのですが、シティプロモーションに注力していなければ調査票を返信しないと推測するため、実質の回答率はより高いと捉えています。このように考え、自分を納得させています。
今回は記念すべき10回目なので、基本的な注意点に言及します。
◇目的は「住民の福祉の増進」
シティプロモーションは民間企業の取り組みです。民間企業では「セールスプロモーション」(SP)と称されます。民間企業がSPをする一つの理由は、利潤最大化を目指し、持続的に成長するためです。すなわち「利潤最大化」の思想が内包されていると言えます。
民間企業が無意識に持つこの考え方には注意しなくてはいけません。それは①不採算部門からの撤退②利益の上がらない市場への不参入――という行動につながるからです。もし、民間企業が不採算部門から撤退せず、利益の上がらない市場に残るならば、「倒産」を意味します。そこで民間企業のDNAは①と②の行動を採用することになります。
以前、私は市役所に勤務していました。その前は民間企業で働きました。市役所の後は財団法人に転職し、現在は大学に所属しています。民間企業から自治体に移って気付いたのは、自治体の多くの業務が不採算部門であり、利益を上げるのが難しいという事実です。
私は「民間企業では利益が上げられない事業であるため、自治体で実施している」と理解しました。例えば、生活保護や自殺対策など、多くは利益を上げることが難しいと感じました(上下水道など企業会計の事業は、利益を上げられそうな気がします)。 読者の方々は大丈夫でしょうが、自治体がシティプロモーションを進め、利潤最大化という民間企業の思想(経営システム)が内部に浸透すると、多くの事業から撤退する可能性があります。
つまり「(本来は必要なのに)そのプロモーションをしても、利益が上がらないからやめてしまおう」「設定したメインターゲットのみが利益が上がるため、それ以外(生活保護など)は切ってしまおう」となります。これでは、自治体の目的から逸脱してしまいます。自治体の目的は「住民の福祉の増進」(地方自治法第1条の2)です。
持論ですが、大切なのは「住民の福祉の増進」を担保した上で進めていくことです。重ねて言います。自治体の大前提は「住民の福祉の増進」です。
これはシティプロモーションに限定するのではなく、民間企業の思想を自治体に入れる場合、すべてに当てはまる注意点です。
◇最少の経費で最大の効果を
繰り返しになりますが、民間企業の思想(経営システム)を自治体が採用すると、存在の否定につながるかもしれません。
この話をすると、しばしば「では、どうすればいいのか?」と聞かれます。私の答えは「営業マインドを持って進めるべきだ」です。ただ、この回答が絶対正しいわけではありません。
すると、次に「営業マインドって何ですか?」と尋ねられます。この営業マインドの意味こそ、読者の皆様なりにイメージして、結論を出してもらいたいのです。

「営業マインドって何なの?」と聞かれた時、私は「(尋ねた人の)1時間当たりの人件費は幾らですか?」と問い返します。読者の方々は、自分の1時間当たりの人件費を把握しているでしょうか。私の懇意の2自治体に頼み、職級ごとの1時間当たりの人件費を出してもらったのが右の図です。
私が考える営業マインドとは「費用対効果を考えること」です。「投下した費用以上に効果(成果)を上げること」を意識するのが営業マインドです。同時に機会損失も想定します。そして投下した費用以上の効果(成果)を得ることです。
例えば、係長が自治体研修を3時間受講した場合、約6500円かかります。この額以上の効果を得なくては、費用対効果の観点では損します。さらに言うと、3時間の研修を受けている間は本来業務をしていません。すなわち機会損失が発生しています。そうなると、3時間で約6500円どころではなく、約1万3000円以上かかっているかもしれません。つまり、係長は3時間で約1万3000円以上の効果を得る必要があります。
ここで記したのは、地方自治法で規定している「最少の経費で最大の効果」です。地方自治法第2条14は「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と明記しています。
同条文を基本とすることが、私の考える営業マインドです。こうしたマインドを持って、シティプロモーションに取り組んでいただきたいと思います。(了)
- ◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
- 法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、埼玉県春日部市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。