コラム 【ナッジ入門編10】実践7:バイアスを考える 2022/10/04 17:00
岡山県真庭市産業観光部農業振興課 藤田浩史

行政現場でナッジを活用したケースを、各地の自治体のリレー方式で紹介しています。今回は、岡山県真庭市の環境関連の試みです。ナッジの普及を目指す特定非営利活動法人PolicyGarageが執筆を依頼しました。
真庭市は職員有志でナッジを学び、情報交換をしています。今回は、環境課で取り組んだナッジの事例を紹介します。
どれも予算をあまりかけないように、P O P(Point of Purchase、もともと「購買意欲の後押し」という意味)の張り紙のメッセージやデザイン、印刷は手作りで基本的には消耗品以外の経費はかかっていません。
意識したのは▽対象とする相手のバイアスをよく考えてメッセージを選ぶ▽ピクトグラムを使いイメージを分かりやすく伝える――ことなどです。
◇事例1=プラごみを資源ごみ分別!(2020年4月〜)

対象:市役所職員
場所:市役所内の休憩室 約10カ所
目的:ごみの分別を徹底したい。コンビニのプラスチックごみを「燃えるごみ」ではなく「資源ごみ」に分別してもらう。
手法:休憩室内にP O Pを掲示
結果:分別する人が増えた。現在も継続中。
考察:昼食にコンビニエンスストアや出前のお弁当を取る職員が結構います。容器は使い捨てプラスチックが多く、食べ終わった後にそのまま燃えるごみに捨てる人が多くいました。そこで、ごみを分けることは単なる道徳心ではなく、燃料に再生されることを具体的に伝える内容にしました。掲示後はかなりの割合で水洗いしてプラごみへ入れてくれています。公務員のバイアスには同調効果がよく働くと感じています。
◇事例2=ストロー本当に必要ですか?(2020年8月〜)

対象:カフェのお客様
場所:市内のカフェ1店舗(市からナッジを提案し実践してもらいました)
目的:使い捨てストローの使用を少なくしたい。
手法:注文窓口にP O Pを掲示
結果:ストローの使用を約9割削減、現在も継続中。
考察:環境問題に関心の高いカフェにナッジを使ったストロー削減策を提案し実践してもらいました。ドリンクを注文する窓口にP O Pを掲示、デフォルトでストロー無しとしています。ストローが必要と言われるお客様は約1割、ストローを使う方はほとんどいないそうです。ストロー削減は資源の節約とコスト削減にもつながっています。
◇事例3=生ごみも資源です!(2021年4月〜)

対象:市民
場所:市内のごみステーション約300カ所
目的:生ごみ分別を実践する人を増やしたい。
手法:生ごみ収集バケツにステッカーを貼付(ステッカーの印刷だけ外注し経費が約20万円かかりました)


結果:生ごみ出していないステーションの減(前年比約6%減)
考察:市は生ごみを分別収集して液体肥料にする取り組みを始めています。ごみステーションに生ごみの専用収集バケツを置いています。分別しない人も多く、収集に行ってもバケツが空ということもありました。そこで、ナッジを使った10種類のメッセージ入りステッカーをバケツに貼りました。他の啓発はしていませんが、生ごみを出していないステーション数が前年比約6%減となりました。取り組んでいない人(地区)に取り組んでほしいという狙いでしたので効果はあったと考えています。
ナッジについて「どうやったらよいか?」と聞かれることもあります。誰にでも100%効果のあるナッジはありません。そんな時、まずは対象となる相手のバイアスを想像してみることをお勧めしています。そしてそこからどういう手法、手段がよいかを考えていけばよいと思います。
最近は、ナッジだけではなく、行動経済学、マーケティングなど多くの自治体で「仕事のやり方」を工夫されていると聞きます。いろいろな分野で相手(市民)のバイアスを意識して今までの事務を見直してみると効果が上がるだけではなく、時間や経費が削減できるかもしれません。(了)
- ◇藤田浩史(ふじた・ひろし)氏のプロフィル
- 1992年真庭市(旧北房町へ入庁)。環境課在籍時にナッジを活用したごみ減量施策を企画し実践。POPなどのデザインも自作する。2022年4月から、農業振興課農政企画室長。
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