コラム 【新連載】【シティプロモーション再考1】自治体実態調査のプロローグ 2022/12/23 11:00

関東学院大学法学部准教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔
本連載のテーマは、地方自治体が展開するシティプロモーションの実態の考察です。素材は、全国の自治体を対象にしたアンケート調査です。その回答に加え、私が実施したヒアリングを基に一定の見解を示します。
私の見解は「絶対正しい」わけではありません。読者に考えるヒントを提供したいと思います。コラムのタイトルのように、現在は「シティプロモーション再考」の時期に入っていると考えます。今回、その意図を記します。
▽ブルーからレッドへ
自治体の自主事業の一つに「シティプロモーション」があります。シティセールスなどと称する事例がありますが、本連載は基本的に用語をシティプロモーションで統一します。
私がシティプロモーションに関わり始めたのは2000年代半ばでした。当時、某自治体で取り組んだ時、シティプロモーションという事業は、ほとんど見当たりませんでした(その時に一緒に汗を流した担当職員の皆さまには改めて感謝いたします)。
先進事例を参考にしようと、視察先を探しました。すると、数団体しか見つかりません。しかも政令指定都市といった人口規模の大きい自治体だけでした。選定に担当者と苦慮した記憶があります。それは、私が関わっていた某自治体の人口が10万人程度だったため、規模が異なる事例が参考になるかどうか疑問だったからです。
ちなみに、当初から某自治体は「シティプロモーションをしよう」と考えたのではありません。そもそも「知名度を高めよう」がスタートでした。それに取り組む際、参考事例を調べていたら「シティプロモーション」という概念にたどり着きました。
私はシティプロモーションの専門家と思われているようです。実は、そうではありません。たまたま他自治体に先駆けたため、ライバル自治体が存在せずに成功したのです。すなわち、当時のシティプロモーションはブルーオーシャンでした。だから「うまくいった」と自認しています。ブルーオーシャンとは「競争相手のいない未開拓の市場」です。
ところが、現在はレッドオーシャンです。レッドオーシャンとは「激しい競争状態にある市場」を意味します。激しい競争の中で勝ち残るには、今まで以上に戦略的に展開しなくてはいけません。
現在、多くの自治体が取り組んでも、所期の目標を達成できずにいます。所期の目標とは「定住人口を増やそう」「観光客(交流人口)を増加しよう」「関係人口を拡大しよう」などです。まさに混迷期に入ったシティプロモーションと指摘できます。
しばしば「シティプロモーションがうまくできない。どうすればよいか」と嘆く職員がいます。これに回答するには、実態を把握しなくてはいけません。そこで全国の自治体へのアンケート調査に入りました。
▽全国アンケート調査概要
担当職員の「シティプロモーションがうまくできない。どうすればよいか」という悩みへの答えを明らかにするため、官民が連携し地域の魅力を発信する「シティプロモーション自治体等連絡協議会」が全国の自治体にアンケート調査をしました(期間は21年9月21日~12月8日)。私は08年に同協議会の設立に関わり、現在は顧問という立場です。
この調査は、都道府県と特別区を対象外にしています。都道府県を外した理由は、シティプロモーションを実施している事例が少ないからです。していたとしても、海外向けの大規模なシティプロモーションです。私たちの考える趣旨と異なりました。
特別区を除いたのは、地域性により定住人口や観光客などのけん引力が強いからです。特別区の場合は「シティプロモーションを実施した成果によって所期の目標を達成できたか」を分析するのに容易ではないと考えました。
今回の対象は1718市町村。有効回答数は475市町村でした(回答率27.6%)。シティプロモーションに消極的な市町村は「回答しない」(調査票を返信しない)と推測しますから、実質の回答率はより高まるでしょう。
過去、全国規模の調査に「全国自治体シティプロモーション実態調査」があります(実施主体は事業構想大学院大学。期間は18年1月4日~2月5日)。回答率は9.3%と低いものの、初めてシティプロモーションの実態が浮き彫りになりました。
今回の回答率は27.6%であり、同大学院大学の調査に比べ、より深みのある結果が得られたと考えています。
下の図表は調査の設問です。全部で42設問ですが、今回の図表には大項目10問を載せています。ご協力いただいた自治体の皆さまに感謝申し上げます(ただでさえ、新型コロナウィルス感染症対応で忙しいのに、アンケートに答える仕事を増やして申し訳ありませんでした)。

本連載で、図表の設問のうち、特に重要と思われる内容をピックアップします。同時に私のヒアリングを参考にしつつ、シティプロモーションを成功させるための知見を提供します。現状に加え、調査から明らかになった事実、今後の展望に言及します。次回から詳述していきます。
ちなみに、アンケート結果は、上記の協議会のホームページ(協議会へのリンクは文末参照)で公開しています。関心のある方はアクセスしてください。
▽成果導く二つの方向性
私は、よくこんな話をしています。それは「『100人の顧客を2社で奪い合う』のと『100人の顧客を100社で奪い合う』場合、企業が顧客を獲得できる可能性が高いのはどちらでしょうか」です。回答は明快で、「100人の顧客を2社で奪い合う」です。1社50人の顧客を得ることができます。後者は、1社当たり1人になります。
何を言いたいかというと、私がシティプロモーションに関わり始めた2000年代前半は「100人の顧客を2社で奪い合う」状況でした。ほとんどの自治体が取り組んでいなかったため、ライバル自治体が少なく、成果を出しやすかった環境でした。
しかし、現在のシティプロモーションはレッドオーシャンです。しかも現実は「100人の顧客を100社で奪い合う」ではありません。人口減少に伴い「100人の顧客」が縮小しています。つまり「80人に減少した顧客を100社で奪い合う」のが実態です。
このような状況下で成果を導くには、大きく二つの方向性があります。第1に、シティプロモーションを戦略的に進めることです。多くの自治体に見られる「独りよがりの戦略」ではなく、「客観性に基づいた戦略性」です。
第2に、シティプロモーションの新しい領域を開拓する方向です。ちなみに、私は15年ごろから新しい領域としてインナープロモーション(シビックプライド)に携わり、一定の成果を出しています。ただ、近年はシビックプライドに取り組む自治体が増え続け、だんだんレッドオーション化しつつあります。
本連載は、アンケート結果に基づき二つの方向性に関するヒントを提供します。(了)
****************************
最後に少しだけシティプロモーション自治体等連絡協議会をアピールします。現在、同協議会はシティプロモーションだけに限定せず、多様な公民連携の結節点となりつつあります。定期的にセミナーを開いています。オンラインなので、どこからでも聴講できます。基本的に費用は発生しません。シティプロモーションや公民連携に関心を持たれた読者は、事務局(アドレス info@city-promotion2013.jp)まで問い合わせてください。
「シティプロモーション自治体等連絡協議会」へのリンク
→ https://www.citypromotion.jp/
- ◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
- 法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。