コラム 【ナッジ入門編11】連載から顧みる基本と実践 2022/12/13 11:00
特定非営利活動法人PolicyGarage事務局/慶応大学看護医療学部特任助教 赤塚永貴

本コラム「ナッジ入門編」で、これまで10回にわたってナッジの基礎知識や行政現場での活用事例を紹介してきました。今回は、これまでの内容を振り返り、入門編の総括とします。この連載は、行政現場へのナッジ普及を目指す特定非営利活動法人PolicyGarageが執筆・依頼しています。
1~3回は、横浜市職員でPolicyGarage事務局の長澤美波氏が、ナッジに関する基礎知識を紹介し、活用方法を解説しました。
ナッジは、米国の行動経済学者リチャード・セイラー氏らが提唱し、同氏の2017年ノーベル経済学賞受賞で注目を集めた言葉です。ここ数年で、さまざまな場所や機会で耳をすることが増えてきました。それは行政の現場でも例外ではありません。ナッジについて「聞いたことはあるけど…」という方は、まずは1~3回を読んでいただき、ナッジについて学んでみてはいかがでしょうか。
第4回から第10回までは、行政現場でナッジを実践した事例について、リレー形式で紹介しています。
▽通知やチラシで実践
4~6回で、市民宛の通知やチラシにナッジを活用した事例を連続で紹介しました。
4回は、神奈川県茅ヶ崎市職員でPolicyGarage事務局の勝山明日香氏が、市民向けアンケート調査の回答率を上げるために、通知のメッセージやデザインに工夫を凝らした経過を解説しました。茅ヶ崎の観光名所「えぼし岩」を取り入れたデザインは必見です!
5回は、岡山県版ナッジ・ユニットの皆さんに、県内事業者向け研修会の申し込み数アップのためにチラシを工夫した事例を示してもらいました。同県は、県の事業にナッジの視点を取り入れることを目指しており、政策推進課の業務としてユニットを設けています。既存のチラシの課題を見つけ、改善策を考える流れについて丁寧に解説されており、これからナッジを使ってみたい方にもぴったりの中身だと思います。
6回は、つくばナッジ勉強会の皆さんによる「避難行動要支援者名簿」作成の際の、同意書の返送率アップに向けた取り組みと効果を検証するプロセスの紹介です。
対象者を四つの群に分けた上で、それぞれ異なるメッセージが書かれた封筒を送り、各群の返送率を比較することで、どのメッセージが効果的であったのか検証しています。
市民向けのチラシや通知にナッジを活用する事例は、行政の現場でも多く実践されています。4~6回の事例には、実際に現場で取り組んだ職員だから分かるポイントや注意点がたくさんあると思います。チラシや通知を良くしたいと思ったときにはぜひ参考にしてください。
▽環境や保健分野への活用
7回は、北海道行動デザインチーム(HoBiT)の皆さんによる、庁内コンビニのレジ袋辞退率アップを目指したユニークな取り組みです。HoBiTは現在、エゾ鹿と自動車の衝突事故という北海道ならではの課題にもナッジの考え方を取り入れて取り組んでいるそうです。これからの活動にも目が離せません。
第8回 実践5:SMS(ショートメッセージサービス)による特定健診勧奨
8回は、横浜市職員でPolicyGarage事務局の嶋田誠太朗氏が、特定健診(いわゆるメタボ健診)未受診者へのメッセージの工夫に関する事例を述べています。
この事例のように、最近は保健・健康づくり分野でのナッジ活用が注目されています。健診の受診率にお悩みの保健師の皆さんにとって、きっと役立つ情報があるのではないでしょうか。
9回は、堺市環境行動デザインチームSEEDsの前川裕輔氏に、ペーパーレスの一環としてコピー機の印刷枚数カットの取り組みを挙げてもらいました。皆さんの職場でも「ペーパーレス」は聞き飽きるほど呼び掛けられているのではないでしょうか。SEEDsの皆さんが考案した実際の工夫も写真で分かりやすく掲載されています。果たしてナッジの効果は…。ぜひ記事をお読みください!
▽心理的バイアスの視点
10回は、岡山県真庭市の藤田浩史氏に、同市職員有志によるナッジの取り組みを紹介してもらいました。対象となる相手の考え方の癖(心理的なバイアス)を踏まえ、ピクトグラムを用いて分かりやすく伝えるという、一見シンプルな考え方にはナッジの大事な視点が詰まっていると思います。
ここまで、iJAMPポータルでのナッジコラム全10回について振り返ってきました。
この記事を眺めていただいても分かるように、ナッジは少しずつ行政現場にも広がり、活用する自治体・機関も増えてきています。活動のレベルも、職員有志の活動から組織化・業務化までさまざまです。行政現場でナッジを活用した場合の効果や上手な活用方法も、手探りながらだんだんと明らかになってきました。一方、行政現場での実践ならではの悩み事や課題があることも分かってきました。
そこで来春から、これまでの入門編からさらに一歩踏み込んだ内容の連載を予定しています。現場でナッジを活用するときの、あるあるお悩みを解決するヒントが得られるような内容を企画中です。どうぞお楽しみにお待ちください。
私たちPolicyGarageは、定期的なランチタイム勉強会や研究会を設けています。その中で、それぞれの自治体が抱える悩み事について、自治体職員同士のディスカッション、さまざまな分野の専門家からのレクチャーなどを通して、みんなで課題を解決していける、もっと楽しく仕事ができるプラットフォームを目指しています。
「ナッジに興味はあるけど何から始めたらいいか分からない」「ナッジについて話せる仲間がほしい」など、もしご関心がおありでしたらぜひ下記にアクセス・ご連絡ください。(了)
- ◇赤塚永貴(あかつか・えいき)氏のプロフィル
- 2015年に横浜市へ入庁、福祉保健センター高齢・障害支援課に勤務(保健師)。18年に大学院へ進学し、在学中に特定非営利活動法人PolicyGarageに参画する。現職は慶應義塾大学看護医療学部特任助教。本連載のコーディネートを担当。
大阪大学社会経済研究所、行動経済学会、PolicyGarageによる自治体職員向けナッジ・ポータルサイト「自治体ナッジシェア」へのリンク
→ https://nudge-share.jp/

PolicyGarageへのリンク
→ https://policygarage.or.jp