コラム 【公務員の段取り力12】マネジメントは自らの手で 2022/12/02 11:00
静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
これまでさまざまな視点やケースを基に、公務員の仕事や日常の段取りについて述べてきました。今回で連載を一区切りにします。まとめとして私がお伝えしたいのは「自分の職業人生は自分でつくり、自分がマネジメントする」ということです。
▽したいことを見失わない
いつも上司の顔をうかがったり周囲の空気を読んだりして仕事をしていると、やがて「自分」というものが消えうせてしまいます。「誰かに言われてやる」受け身だけの職場生活では、仕事に潤いも励みもなくなります。
担当職務をきちんと学んだら、時には自分の考えを周囲や上司に主張してみましょう。どんな思いも言葉にしなければ、相手の胸に届きません。届いて響かなければ、あなたの業務改善も施策・事業も形になりません。自分が真にしたいことは自分から主張し、自ら仕事を設計していくのです。それが公務「担当者」の姿だと思います。
自分の頭で熟慮した施策で幾つか実績が出て、将来、地方の逸材として「地域のことは私にお任せください!」と言える。そんな仕事の達人になれたらいいですね。
思い出してみましょう。役所に入庁したばかりの頃の自分の目標や理想、またその後の職務経験の積み重ねから「これをしてみたい」「あれに取り組みたい」という思いは、必ず誰にでもあるはずです。それを見失わず、素直に実現させようではありませんか。
あなたが将来、職業人生を振り返った時、地域のために役立ったと胸を張って言える仕事を、幾つ仕上げることができたか。これが自分への行政評価そのものだと思います。
▽置かれた場所で学ぶ
公務員は行政のさまざまな分野、職場を経験します。その職務範囲は他の業種と比べて桁違いに広く、極めて多くの選択肢があります。思いがけず全く希望していなかった部署に配属されても、そこには、あなたが見たことも、想像したこともない世界が広がっています。
まずは置かれた場所で学び、励んでみてはいかがでしょう。膨大な知識と情報が得られ、大きな発見もあるはずです。これもキャリアづくりの段取りであり、そこでの取り組みや実績が、他の部署に異動しても仕事の手掛かりやベースになります。公共の仕事には幅広い住民奉仕や政策バランスなど、全体に通底する感覚や概念があり、それを実務で幅広く知ることで、地方行政への理解と見識が深まります。
▽好きになったら諦めない
ですからどんな異動でも、ネガティブに捉えないことです。役所の広大なフィールドを通じて、仕事はもちろん、社会と国、地域を知り、その全体像を眺め、多くの事案と解決例を習得するのです。その過程で、自分が全く気付かなかった自身の才能を覚知することもあります。すると次第に自分が「やりたい」、いや「ぜひやるべきだ」というあなた自身の「公務の道」が見えてきます。
行政という大波に投げ込まれながら仕事の核心を見つけ、自らの公務員人生を設計し、実行する。いわば「被投的な企投」であなた自身のキャリアを培い、職業人生をつくり上げていくのです。
そして、好きになった分野の道は諦めない。自分が「これをしたい」と意識したら、その思いを持ち続けることです。それを職場で手掛けるチャンスは必ずやってきます。
▽職員に寄り添う組織に
自分の頭で仕事の設計ができ、自らが目指す公務員人生の目標を設けられれば、やりがいと生きがいは数倍に増します。ただ、その実現は本人の努力だけでは難しい。組織がシステムとして温かく寄り添い、支援することで、より着実に実現するのです。組織は、できるだけ多くの職員がこうした自己実現に向かうよう、一人一人を総力で丁寧に支えるべきです。
自治体の経営改革の中心は、職員各自がプロとしての生涯目標を決めて成果を出し、自信を深めて士気を上げ、熱い気概で公務員人生を築けるような組織をつくることです。職員が仕事を常に見直し、自ら改革して具体的に取り組む姿勢と活動を、職場、組織がシステムとして支える。各自がどんなキャリアを積みたいかを職場が共有し、組織がその進捗(しんちょく)を長期的に支援する。藤枝市は長くこの取り組みを精力的に進めています。
組織や職場が自分の成長を支えてくれているという実感と信頼感が湧くと、職員は理想の公務員像を自ら描き、それに向かって明るく仕事に励むようになります。市民サービスの質も中身も、おのずと向上します。自治体経営は、まさに総力戦です。職員皆が参画し、各自で取り組む成長への段取りと実践こそ、厳しい時代に強靭(きょうじん)な組織と熱い心で輝く自治体づくりのカギだと私は思います。
あなたもあなたの組織も、理想に向かって熱い段取りを進めましょう!(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、19年4月から藤枝市理事。同年6月に人財育成センター長に就任した。同県内を中心に、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師を務めている。