インタビュー 【トップインタビュー】みんなで「しゃばる」町づくり=大江和彦・島根県海士町長 2022/11/17 08:30

島根半島沖から約70キロ先に浮かぶ隠岐諸島の有人4島の一つ、島根県海士町。大江和彦町長(おおえ・かずひこ=63)は、「心一つに、みんなでしゃばる島づくり」を掲げる。「しゃばる」は「強く引っ張る」という意味で、町に根付く綱引き大会から着想を得た。「全員が一つの方向に向かって引っ張っていく町づくりが大事。そういうところが元気な町になる」と力を込める。
2018年の就任以来、「半官半X」制度創設に取り組んできた。町職員が地域課題を解決するための副業にも従事できる制度だ。自身の町職員時代は、「みんな現場に出て、常に住民との距離が近かった」と振り返る。しかし、インフラ整備などが進むにつれて出向かなくなり、下の世代の職員が「気付きが少なくなった」という。「公務員も地域の課題にどんどんチャレンジしてほしい」と訴える。
制度設置には「地方公務員法をクリアするという大きなハードルがあった」と明かす。内閣府や弁護士などからアドバイスを受け、20年3月に条例を制定。「今までの公務員らしくないように(組織が)できつつあるので、ほっとしている」と胸をなで下ろす。「地域を盛り上げるのに(官民の)境はない」として、公務員の意識改革を期待する。
現在、他で働いた分が給与減額となる「兼業型」を利用している職員は4人。「やりたくない人にやれという制度ではないので十分だ」と言う。一方、「今は私が職員の背中を押しているので、トップダウンの格好」と話す。「ボトムアップで力が出るのが良い形なので、工夫して改善しないといけない」と解決策を探る。
「海士町複業協同組合」は、特定地域づくり事業協同組合として全国で初めて認定された。関連法は町観光協会がモデルとなったことから、「第1号でやらないと格好がつかない」と奔走。「どうしたら自分の力で地域が元気になれるのか、解決するスタイルになってくれたら良い」という。3~5年程度在籍した後に町内で起業や就職してもらい、新しい人材を組合に入れる「好循環が生まれれば若い人たちがチャレンジする」と語る。
町外の人との関係性構築も重視する。「還流おこしプロジェクト」と銘打ち、「関係性を深めることをやらないと定住につながらない」と話す。「ここでどういう人と出会ってどういう体験をしたかが大事」と強調するように、町民と交流する機会を創出。大学生や社会人のための長期インターンシップ「大人の島留学」は、「地元企業も喜んでいる」と手応えを見せる。
〔横顔〕町職員を経て18年から現職で2期目。趣味は農作業や素潜りの漁。とれた野菜は近隣住民にお裾分けすることもある。
〔町の自慢〕自分で畑を耕す町民が増えてきた。「若い人たちが(農業に)興味を持ち始めているのは良いこと」とうれしそうに話す。
(了)
(2022年11月17日iJAMP配信)