インタビュー 【トップインタビュー】多島の町、不利性解消に全力=前泊正人・沖縄県竹富町長 2022/11/24 08:30

沖縄県竹富町は、役場の本庁舎が町外にある全国でも珍しい自治体だ。庁舎は石垣島にあり住所は石垣市。勤務する職員の大半も同市に住む。一方、約4300人の町民は、西表島や小浜島、竹富島など町内の有人9島に生活基盤を置く。4月に就任した前泊正人町長(まえどまり・まさと=45)は、「職員と町民の温度差を解消していくことが大切だ」と強調。就任以来、職員に意識改革や町民との積極的なコミュニケーションを呼び掛けてきた。
「職員は町内に住んでいない。だから町民の気持ちが分からない」。竹富町民には以前からこうした不満が根強くあったという。町長自身も約14年間の職員経験から、実際に足を運び町民の声を聞く大切さを感じてきた。就任後、オンラインで意見を直接受け付ける「町長直行便意見箱」を設置。こだわったのは、寄せられた意見を職員が選別せず、自身が最初に読む仕組みとした点だ。
「全部読むのは大変だと言われたが、町民が求めていることをしっかり聞き、課題解決に動くことが重要」と助言を退けた。「今後検討する」「関係機関と調整する」といった常とう句は避け、いつ、何を、検討・調整するのか、具体的に答えていきたいと話す。
これらの取り組みから実現したのが、11月1日に始まった定期船の船賃負担軽減事業。既に船賃は一括交付金を活用し軽減しているが、「住民が求めているのは箱モノではなく、上昇する物価や生活コストの低減」。石油価格の上昇に伴い徴収される燃料油価格変動調整金(サーチャージ)を補助することを決め、来年3月末まで従来比25%前後、町民の船賃軽減を図った。
沖縄県で沖縄本島に次いで面積が広い西表島は2021年、世界自然遺産に登録された。環境保全と観光産業のバランスをいかに取るか、町は関係機関と調整しながら着地点の模索を続けている。観光客のトイレやごみ対策のため、「定期航路の船賃すべてに『来訪税』のような法定外目的税を上乗せする」ことも検討しており、「経済を含め、持続可能な島づくりを進めていく」考えだ。
デジタルトランスフォーメーション(DX)も重要な課題。「離島の不利性」を解消できる重要なツールになるとし、「行政DXを進めながら、教育のDXにも力を入れていく」。年度内をめどに推進計画をまとめ、デジタル活用に向けた宣言、条例制定を急ぐ方針だ。
〔横顔〕高校野球の名門「沖縄水産高校」(糸満市)出身で、高3夏に主将として甲子園に出場。プロを目指して大学、社会人でも野球を続け、「負けず嫌いで壁が高いほど燃える」性格を培った。
〔町の自慢〕豊かな自然や島ごとに受け継がれてきた伝統文化に加え、「一番の魅力は人」。島の生活は厳しい面もあるが、定住を決める移住者が多いのは町民の温かい人柄が理由の一つという。
(了)
(2022年11月24日iJAMP配信)