インタビュー 【トップインタビュー】子育てトップランナー維持=佐藤信治・広島県府中町長 2022/11/29 08:30

広島県府中町は、中国地方最大の都市である広島市という他自治体に四方を囲まれた、全国でも珍しい町だ。大手自動車メーカーのマツダ本社が所在し、古代には安芸国の国府があったといわれ、ゆかりの史跡や遺跡も残る。
佐藤信治町長(さとう・のぶはる=68)は町職員、副町長などを歴任後、2016年に初当選して現在2期目。「広島都市圏で『一番子育てしやすい町』『暮らし育む教育の町』というものにとくに力を入れてきた。子育てのトップランナーを維持していく」と語る。
具体的には、妊娠期から子育て期まで切れ目なく世帯支援をするネウボラ事業を重視する。新たな事業も計画中で、子どものさまざまな情報を集約して人工知能(AI)を活用し、問題が起きそうな兆候を事前に把握し、予防的に支援を行う取り組みを2023年度から開始する。佐藤氏は「例えば虐待にしても不登校にしても(通常は)事象が発生してから対応することが多い。事前に把握して支援をしていく方が子どもにとってもいい上、トータルの事業費も低減できるのではないか」と提案する。「よそ(の自治体)にないことにチャレンジすることで、他自治体や地域全体にも貢献していきたい」と意義を強調した。
また、町内の待機児童ゼロは制度上達成したが、全ての子どもが親の希望する保育所に通っていない「潜在的待機児童」がいることを問題視。「これでは子育てをしやすい町とは思ってもらえない」として、既存保育所の定数を拡大し、24年度には保育所も新設予定だ。これで「潜在的待機児童」もゼロになる見込みという。
一方、人口減少が多くの自治体で重い課題となっている中、20年の国勢調査で町の人口は約5万1000人と日本の町村で最も多かった。佐藤氏は「1990年の国勢調査で5万人を超えてから、ほぼ横ばいを維持している。5万人を切った時期はない」と話す。実は地方自治法上の規定である単独市制への移行条件「人口5万人」は満たしている。ただ、移行については「府中町が市に昇格して大きなメリットがあるのかどうか。そこに力を投入するよりも、町づくりを進めていくのが必要だ」と冷静な見方を示した。
マツダという世界的企業があることは、強みであると同時に悩みの種にもなる。「町の財務基盤を支えていただいている企業の一つで非常にありがたい税収が入るが、やはり景気によって大きく乱高下する。それに備えないといけないので財政運営には苦労している」という。しかしそこはやはりお膝元で、公用の町長車を尋ねると「もちろん地元のマツダです。自家用車もね」と笑顔で即答した。
〔横顔〕大阪府出身。子どもは3人。サッカーが趣味でサンフレッチェ広島ファン。早朝の日課は愛犬の散歩で「かわいいシバイヌがいる」。
〔町の自慢〕広島市中心部まで電車で数分で着くため「都市的な生活ができて、身近には森林公園もあり、住みやすいと感じてもらえる」(佐藤氏)ところ。今後はバランスの取れた都市基盤の整備のため南部地域の開発にも注力する。
(了)
(2022年11月29日iJAMP配信)