2023/令和5年
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インタビュー 【トップインタビュー】子々孫々に幸せをつなげる=吉田尚人・高知県梼原町長 2022/12/12 08:30

吉田尚人・高知県梼原町長

 面積の91%が森林に覆われている高知県梼原町。高知県と愛媛県を結ぶ国境の要衝であり、坂本龍馬の脱藩ルートとなった歴史もある。2期目を務めている吉田尚人町長(よしだ・ひさと=62)は「われわれ(現在の町民)が幸せに生きられるようにし、子々孫々にもそれをつなげていきたい」と力を込める。

 町は2050年までに電力自給率を100%にすることを目指しており、4月には環境省がカーボンニュートラルを目指す取り組みの一つ「脱炭素先行地域」に四国地方で唯一選定された。主力は、全戸数の約1割が導入した太陽光発電と1999年から始めた町営の風力発電。風力発電は2000キロワットを出力できる発電機を2機運転させている。ただ、完全自給にはあと8000キロワットの発電が必要。現在の送電線では耐えられないため、太陽光発電の稼働する日中は出力を1200キロワットに落とさざるを得ない状況だという。

 そこで、町産の木質ペレットを用いたバイオマス発電を計画している。電気は、町が「自営線」を張って町内に送り込む他、ペレット工場の電力にも使用するという。「スギやヒノキの捨てるところをペレットにする。間伐によって森を健全にし、雇用の確保にも結び付けていく」と意気込む。

 観光にも力を入れており、特に「まちの駅ゆすはら」や「雲の上の図書館」、町役場など建築家の隈研吾氏が設計した5施設は自慢だ。町と隈氏との関わりは約30年に及ぶが、きっかけは吉田町長ら数人の町民が始めた木造の芝居小屋「ゆすはら座」の保存運動だった。隈氏は「木を大事にして生きるということを梼原から学んだ」と述べているといい、現在は「雲の上のホテル」の建て替えに取り組んでいる。吉田町長は「コロナ禍ということもあり、観光のありようも含めて基本構想から見直している。町について学び、触れる場にしたい」と構想する。

 今後力を入れたいのは教育だという。県立梼原高校を、学問の楽しさを知り、生徒が生き方を選べる場にしたいとの願いがある。現在は高知大の学生が高校生向けに研究内容や学生生活を紹介する取り組みなどが行われている。「進学の意欲が湧く魅力的な高校にして、たとえ町外に出ても社会や梼原のために役立つ人になるよう考えてくれることを期待している」と話す。

 〔横顔〕趣味は高校時代に始めたサイクリングで、1日80キロ程を走る。峠を登り切ってほっとした心地と、下る際に風を切りながら車輪の回転音のみを耳にする爽快さが魅力的だという。

 〔町の自慢〕今も残る13棟の茶堂。かつては情報収集や警戒、土地の安寧を祈る施設であり、「客人信仰」として人や技術など外来のものを福としてもてなす場でもあった。現在でも夏には当番が茶を置くという。

(了)

(2022年12月12日iJAMP配信)

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