インタビュー 【トップインタビュー】地域の宝でまちおこし=藤原淳・岩手県二戸市長 2022/12/15 08:30

岩手県北部に位置し、国産漆の約7割を生産する二戸市。2014年から市政を担う藤原淳市長(ふじわら・じゅん=70)のテーマは、「30年先を見据えたまちづくり」だ。「人口減少が進む中、『人が輝き未来をひらくまち にのへ』というみんなの夢に向かい、公民連携でまちづくりに取り組んでいる」と語る。
まちづくりの基本は「宝」だ。まず地域の宝を探して、磨く。現時点の宝は、金田一温泉や九戸城跡、天台寺と瀬戸内寂聴、座敷わらし、南部せんべい、ブランドとなっている浄法寺(じょうぼうじ)漆など数十項目ある。そして宝を興す。宝を産業に結び付けることによって、稼げる地域を目指すのだ。
今、注目されている宝に浄法寺漆がある。この漆は、漆器だけでなく金閣寺や日光東照宮などの修復で使われている。安い輸入漆で修復すると金箔(きんぱく)がすぐに剥げ落ちることがあるためだ。文化庁は15年に、文化財の修復には国産の漆を使用すべきだとの方針を通知した。年間2トンの需要に応えるためには18万本の原木が必要だが、まだ追い付かない。「追い風は吹いているが、受け切れていない状態」(藤原市長)という。
宝は、つなげることも重要だ。浄法寺漆は、苗木を生産し、林を育成し、生漆を掻(か)き、出荷するだけでなく、木地の生産、漆塗り、漆器販売までで完結している。この循環の舞台となっているのが市と八幡平市にまたがる安比川流域で、20年にはこの流域の伝統技術「奥南部漆物語」が日本遺産に認定された。同年は、漆掻きの技術がユネスコの無形文化遺産にも登録された。
安比川流域には、漆塗り職人の作業を見せつつ漆器の販売を行う滴生舎がある。また、市は漆について観光客らに学んでもらう場の整備も計画している。藤原市長は「日本遺産やユネスコ登録で注目され、追い風が吹いているうちに整備しなければ駄目。スピードが必要」と、後輩でもある職員の尻をたたく。
別の宝である天台寺周辺地域もこの流域にある。天台寺は、昨年亡くなった瀬戸内寂聴さんが18年間住職を務めた古刹(こさつ)で、寂聴さんが京都から持ってきたアジサイが植えられている。藤原市長は「このアジサイを増やして地域全体に飾りたい。そしてライトアップを見た人に『すごいなあ』と驚いてほしい」と夢を語る。
安比川流域でのまちづくりについては「一つ一つの建物ではなく、全部があっての『漆物語』。実現すればこの地域は良くなる」と締めくくった。
〔横顔〕大学卒業後に旧二戸市役所入り。今年1月に大差で3選を果たした。趣味はスポーツ観戦。「休日は?」との問いに「土日の方が(公務で)忙しい」。
〔市の自慢〕歴史をつくった先人。豊臣秀吉にけんかを売った九戸政実や、大石内蔵助の再来とも称された相馬大作がいる。今年オープンした温泉施設「カダルテラス金田一」は新しい自慢。
(了)
(2022年12月15日iJAMP配信)