インタビュー 【トップインタビュー】魅力発信で「3万人のまちづくり」=武智邦典・愛媛県伊予市長 2022/12/20 08:30

愛媛県伊予市で3期目を務める武智邦典市長(たけち・くにのり=65)は、「3万人が住み続けられるまちづくり」を掲げる。市内6地区をくまなく歩いて街の魅力を発見し、アイデアを発信する。「交流人口、関係人口を増やし、子どもたちがここに家を建て、新生活を築こうという機運を醸成する」ことが何より必要との思いからだ。
市の人口は現在3万5100人。国の推計によると2040年には2万7500人を割り込む。最近発表された県の推計では60年に1万7145人。人口規模が同程度の近隣2市町を下回り、「これでは伊予市には魅力がないと思われてしまう。あっても発信しなければ宝の持ち腐れだ」と危機感が募った。
実現に動きだしたアイデアの一つが、新設されたJR南伊予駅の活用。転車台を備えた車両基地・貨物駅も整備され鉄道ファンが集う。駅周辺の農地を市が取得して駐輪場を整備し、その屋根に展望台を設置して「撮り鉄」を呼び込む狙いだ。あずまやの代わりに特急列車の車両も配置。キッチンカーも呼んでにぎわいを創出する。次のステップとして、展望施設の公園を核とする農業を基軸とした地域活性化も模索する。
隣接するJR伊予市駅と伊予鉄道郡中港駅のアクセス向上も目指す。二つの駅にエレベーターを設置して道幅2.5メートルの陸橋でつなぎ、宇和島方面からの乗客はJR伊予市駅で降りて傘を差さずに伊予鉄道に乗り換え、松山市駅へ行けるようにする。「2.5メートルあれば車いすがすれ違うことができる」のがみそだ。「伊予市の玄関口」として整備し、二つの駅に挟まれた町家エリアにも人を呼び込む。
眼下に伊予灘が広がる小高い丘では、外資系ホテルの立地構想も進行中だ。マレーシアの実業家が自家用ジェットで来日し現地視察。「スピリチュアルなパワースポットだ」と気に入り、ホテルリゾートを手掛けるシンガポールの建築家も来日して、即座に完成予想図が出来上がった。市と実業家を結び付けたのが市出身の宮内謙ソフトバンク会長。市長は手繰り寄せた人脈をつなぎ合わせた。
このほか、地域住民とじかに触れ合う「ディープな観光」を体験してもらうためのサイクリングロード整備や、瀬戸内海と空港を見下ろす園地でのミカン狩りなども計画。市長のアイデアは尽きることなく湧き出している。
〔横顔〕建設会社勤務で培った「現場的発想」が持ち味。城跡からの眺望を復活させるためにチェーンソーを扱える職員に声を掛け現場に直行したことも。座右の銘は、表向きは山本五十六の「やってみせ」の名言だが、本当は人を動かす極意として飲み屋で教わった「目配り気配り思いやり、まめによいしょでプレゼント」という。
〔市の自慢〕県都松山のベッドタウンでありながら、風光明媚(めいび)な伊予灘に面し背後には秦皇山をはじめ800メートル級の山々がつらなる。松山空港へ車で15分、高速道路の伊予インターチェンジへ5分のアクセスなど人を呼び込む「ポテンシャル」は十分。
(了)
(2022年12月20日iJAMP配信)