コラム 【新連載】【変わり始めた公務組織1】テーマをピックアップ 2023/01/10 11:00
人事院事務総局企画法制課長 植村隆生

新連載「変わり始めた勤務環境」を執筆する人事院の植村隆生です。若い公務員や就職先に国や自治体を考えている学生の皆さんを主な対象に、キャリアプランを考える際の参考になる情報を提供したいと思います。
今回は、連載で取り上げる予定のテーマを幾つかピックアップし、簡単に内容を紹介します。
なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆者が所属する機関の見解を代表するものではありません。
◇民間人材の採用円滑化
各府省は、昭和の時代から一貫して、新卒一括採用・年功的昇進・終身雇用という日本型雇用システムを原則として人事管理をしてきました。同時に、弁護士や公認会計士、あるいはデジタルや金融など特定分野の高い専門知識や最先端の知見を有する人材を、補完的に採用しています。
ところが近年、総合職・一般職を問わず中途離職者の増加やZ世代(1990年代後半~2010年代初頭生まれ)に代表される若者の就職に対する価値観が変化し、新卒採用だけでは業務を中核的に担う職員の絶対数が不足する事態が生じています。不足分の戦力を補うため、各府省は現在、課長補佐級や係長級を中心に民間企業などで働いた経験を持つ人材を積極的に採用するようになっています。
一方、急速に多様性を増す現場には戸惑いもあり、採用された民間人材へのサポートも不足している印象です。制度上も運用上も改善の余地がありそうです。
◇スペシャリストの活用
国家公務員の仕事は専門分野ごとに細分化されており、多くは特定の分野で働く専門家(スペシャリスト)です。一方、霞が関の中枢で政策の立案や調整を担う総合職、とりわけ事務系はゼネラリストです。「技官」と呼ばれる総合職技術系にも政策調整などの経験を広く積ませ、専門分野の垣根を超えたゼネラリストとして育成したり、事務官と技官の人事を融合させたりしている府省もあります。
現在、総合職を念頭に「各府省は博士号取得者をもっと高く評価して積極的に採用・処遇すべきだ」との議論が政府・与党内にあります。四半世紀前の「橋本行革」で問題提起されながら放置されてきた古くて新しい課題とも言えます。各府省が高度専門人材の採用やキャリアパスの構築にどう向き合うのか、本気度が問われます。
◇ハイブリッド型も
わが国の公務員制度は戦後、米国の影響を強く受け、戦前の「人」中心のメンバーシップ型から「仕事」中心のジョブ型に転換しようとしました。
メンバーシップ型は、新卒一括採用・年功的昇進・終身雇用に代表されます。一方、ジョブ型は、各府省のすべてのポストの職務(ジョブ)を分類して格付けし、個々のポストに空きが生じるたびにジョブディスクリプション(職務記述書)や必要なスキルを明示して公募する仕組みです。給与はポストの職務に応じた額が支給されます(職務給)。
戦前からの人事慣行を維持したい各府省の反対でジョブ型の導入は失敗しましたが、それ以後、脈々と続いてきたメンバーシップ型にも近年ほころびが生じつつあります。組織は「人」です。人を大切にするメンバーシップ型のメリットを生かしながら、ジョブ型のメリットも取り入れたハイブリッド型の人事制度が今後の課題になります。
◇柔軟な働き方への転換
多くの公務職場では、全員が同じ時間に出勤し、朝から夜(時には深夜)まで上司や同僚と顔を合わせてチーム一体となって働くのが普通です。上司は日常的に部下の働きぶりを確認しながら業務管理し、必要な指導や助言をします。勤務時間や休暇の制度は、職員の希望よりも公務の円滑な運営を優先した仕組みです。フレックスタイム制度は民間労働者と比べると画一性が強くなっています。テレワークも最近まではほとんど普及していませんでした。
ところが近年、公務を取り巻く環境の変化に伴い、むしろ柔軟な働き方を進めることがより良い行政サービスの提供や優秀な人材の確保に役立つとの考え方に転換しつつあります。背景には▽コロナ禍をきっかけにしたテレワークの急速な普及▽行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展▽若い世代を中心に柔軟な働き方を求める価値観の変化▽さまざまな事情を抱えた職員の増加――などが挙げられます。
◇リスキリング
リスキリングとは「学び直し」のことです。「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(経済産業省「第2回デジタル時代の人材政策に関する検討会」)といった意味で使われます。「経済財政運営と改革の基本方針2022」(2022年6月閣議決定)では「国家公務員について…リスキリングなど人材の確保・育成策に戦略的に取り組む」とされ、公務員の世界の重要な課題の一つとして、人事院や内閣人事局、各府省がさまざまな対応をしています。
行政のDX推進に当たり、職員が必要なデジタルのスキルを学ぶことが一つのイメージですが、大切なのは、職員が自律的にキャリアを形成する意識を持ち、内外の環境変化に合わせて自分に不足するスキルを主体的に学び直すことです。これらの行動変容をサポートするには、1on1(上司と部下の1対1での面談)を通じたコミュニケーションやフィードバックを通じてリスキリングを支援する環境づくりが重要です。(了)
- ◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
- 1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長を歴任し、現在は事務総局企画法制課長。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。