2023/令和5年
128日 (

コラム 【新連載】【地方議会めぐる新潮流1】地制調から浮かぶ課題1 2023/01/31 11:00

甲府市議会議員 神山玄太氏

甲府市議会議員 神山玄太

 昨年12月28日、内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会は「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申」を岸田文雄首相に提出しました。地方議会にスポットが当ったのをきっかけに、改めて課題を整理し、解決に向けた対応について新しい連載で考えてみたいと思います。

▽現状認識と課題

 地制調は、内閣総理大臣の諮問に応じ、地方制度に関する重要事項を調査審議するため、1952年に地方制度調査会設置法により設置され、現在はその第33次が開かれています。

 答申は、議会の位置付けの明確化や立候補環境の整備、議会のデジタル化などに触れ、議員の成り手不足対策では、政府が企業に対し独自の立候補休暇制度や当選後も働ける兼業制度の創設を要請すべきだと提言しています。

 政府は答申に沿って通常国会に法改正案の提出を検討しているそうです。地方議員の視点でその内容を見ていきたいと思います。

 そもそも諮問は「社会全体におけるデジタル・トランスフォーメーションの進展及び新型コロナウイルス感染症対応で直面した課題等を踏まえ、ポストコロナの経済社会に的確に対応する観点から、国と地方公共団体及び地方公共団体相互間の関係その他の必要な地方制度のあり方」について調査審議を求めていました。

 文が少し長く、諮問を受け取った側がどの部分に関心を持つかで検討内容が変わりそうです。結果として「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策」をテーマに議論されました。地制調はこれまでも地方議会に関する答申を出していますが、全般にわたって言及する例はあまりなかったようです。諮問を受け、地方議会の在り方を考えてくれたのは、地方議員の立場からありがたいと思います。

 答申は、地方議会に関する現状認識と課題を次のように整理しています。

 (現状認識)地域の多様な民意を集約する議会の役割は大きい/多様な人材が参画し、住民に開かれた議会を実現することが重要

  (課題)議員の構成は、性別や年齢構成の面で多様性を欠いている

  (課題の結果)住民の議会に対する関心が低下/住民から見た議会の魅力の喪失/議員の成り手不足の原因の一つ

▽リアルな例で考える

 この現状認識と課題、そして課題の結果生じていることを、甲府市議会をリアルな例として、考えてみます。

 甲府市議会の議員構成は定数が32人で、女性4人、男性28人です。2022年12月21日現在で平均年齢は60.2歳。20代、30代はおらず、40代7人、50代6人、60代12人、70代7人。男女比で7倍の差があり、年齢構成は中年層から65歳以上の高齢者層に偏っています。

 ちょうど10年前、私が1期目だった12年5月20日現在で定数は32人。今と定数は変わりませんが、女性は1人で、平均年齢56.5歳(20代1人=私)、30代1人、40代5人、50代13人、60代9人、70代3人)でした。この時と比べると、現在は女性が4人に増えましたが、平均年齢は約4歳、高齢化しました。10年前に最年少の私が相変わらず最も若く、若手は台頭していません。女性は増えたとはいえ、男女比に偏りがあり、地制調が指摘する「性別や年齢構成の面で多様性を欠いている」のは私たちの議会にも当てはまります。

 甲府市議会議員選挙の投票率の推移を見ると、07年54.41%、11年44.15%、15年46.69%、19年43.45%と減少傾向です。地制調が課題として挙げる「住民の議会に対する関心が低下」の状況は見られるかもしれません。ただ15年が前回より投票率が回復した理由に▽同年に甲府市議選が定数を12人オーバーした激戦だった▽30代の候補者が7人立候補し(うち当選5人)若い世代の運動が盛り上がった▽前回は1人しかいなかった女性候補者が4人に増えた(うち当選3人)――ことなどが挙げられます。性別や年齢構成で多様性が担保されていれば、有権者の選択肢が増えるため、議会への関心は大きくなると思いました。

 成り手不足について見ると、甲府市議会は11年の市議選で多くの現職が退職したため定数を3人オーバーしただけでしたが、15年は12人オーバー、19年は8人オーバーと、まだ問題は顕在化していません。議会への関心の低下や魅力の創出は、成り手不足に直結するので、甲府市議会は議会基本条例を制定し、市民と議会の交流会を活発に開くなど市民とつながる活動を続けています。

 ここまで見てきたように、地制調が議論した課題は、まさに地方議会に広く認められます。その上で答申は、合意形成をする上で、地域の多様な民意を集約する議会の役割は大きいとしています。そこで、どうやって、この役割を維持し課題をクリアしていくかが重要になります。

▽答申から新潮流を見る

 地制調は、これらの課題を解決するため①議会における取り組みの必要性(多様な人材の参画を前提とした議会運営、住民に開かれた議会のための取り組み、議長会などとの連携・国の支援)②議会の位置付けの明確化③立候補環境の整備④議会のデジタル化――について答申しました。

 次回から、答申に触れながら、地方議会に存在する課題の解決に向けた新しい潮流を見ていきます。(了)

◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、甲府に戻る。2010年、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。11年に甲府市議に初当選。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。15年の甲府市長選挙では次点で落選。甲府市議に2期目の当選後、17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。19年4月から3期目の甲府市議。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。

【地方議会めぐる新潮流】

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