2023/令和5年
924日 (

インタビュー 【トップインタビュー】行政は最大のサービス業=長谷川寛彦・静岡県菊川市長 2023/02/03 08:30

長谷川寛彦・静岡県菊川市長

 静岡県菊川市の長谷川寛彦市長(はせがわ・ひろひこ=61)は、2021年1月の初当選まで第三セクターの鉄道会社社長だった珍しい経歴を持つ。苦しい経営の中、線路の石の缶詰や直筆鉄印帳などさまざまなアイデア商品をヒットさせてきた。その経験を生かし、市の売り出しをけん引。「行政は最大のサービス業」として、民間の店舗に職員を派遣して接客を学ばせるなど、次々と新たな風を吹き込んでいる。

 市の人口は減少傾向にある。「人口を減らしたくない。住みたい街にしたい」との思いからJR菊川駅前の整備に注力する。改札が南側にしかないことから往来が遮断され、にぎわいづくりや観光振興の足かせとなっている。そこで国の交付金も活用して約47億円の事業費を投入し、南北を結ぶ通路がある新しい橋上駅舎を整備する計画だ。27年度までに市が負担する額は、駅前広場の整備費を含めて13億6200万円。かなり思い切った支出となるが、「女性からはカフェやパン屋があるといいねという声がある。やはり女性が好むような街でないと認めてもらえない。民間の知恵を借りながら、歩いて楽しい街にしていきたい」と構想を語る。

 県西部に位置する菊川市は、温暖な気候に恵まれ、深蒸し茶の名産地として知られる一方、中心部を流れる菊川がたびたび氾濫し、水害に悩まされてきた歴史を持つ。就任以来、21年7月の豪雨、22年9月の台風15号など相次ぐ水害に見舞われ、対応に追われてきた。

 市は国に掛け合い菊川などの河道掘削工事を19年度から促進し、23万4000立方メートルの土砂を搬出。台風15号が接近した際は約1.3メートルの水位低減効果があったとされる。長谷川氏も国土交通省に出向き、河川改修を重ねて要望し、さらなる工事予算を確保したという。「昔から『暴れ菊川』と呼ばれ、一気に水位が上がる危険な川。その怖さを知っているからこそ早めに動いた」と語る。

 新規採用職員には「作業改善10カ条」として、「できない説明よりやる方法を考えよう」「心配を先取りするな」「困らなければ知恵は出ない」など9項目を書いて渡した。「(改善を)どう進めるか。一つは自分で考えて書いてほしい」との思いから残り1カ条は空欄。「フットワークを軽く」「引き出しを多くしたい」など、さまざまな1カ条が書かれた用紙を手に「みんな、まじめに考えてくれた。これが大事」と、慈父のように笑った。

 〔横顔〕1984年駒沢大経卒。静岡県に入庁し税務課長や経営管理部理事を経て、18年天竜浜名湖鉄道社長に就任。21年1月の市長選に出馬し無投票で初当選。「無投票だから仕事で返さないと」と自らを鼓舞する。趣味はバイクや書道、バンドなど多彩。

 〔市の自慢〕茶の香りが漂う5月の茶畑。「この風景を見て引っ越してきた人もいる」。22年10月には「茶畑の中心で愛を叫ぶ」とのイベントを開催。多くの参加者が家族愛や夢などを大声で叫んだ。

(了)

(2023年2月3日iJAMP配信)

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