コラム 【職場が輝く知恵とワザ2】言葉で人は動き出す 2023/03/06 10:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽伝わり、感じさせる力
リーダーとして自分の仕事を見せて語り、相手をうならせるには、自分自身が使う言葉の力が物を言います。言葉による伝わり方には、下記の図1のようなプロセスがあります。
③の段階に行けば、相手は自分で動いてくれるようになり、④になると、期待した以上に行動してくれることもあります。あなたの発する言葉次第で、自ら動いてくれる、動いてしまう状況をつくることができます。これが「言葉で人が動き出すワザ」です。

部下はあなたの指示を受ければ、取りあえず動きます。しかし、真にその意味や目指す到達点を理解しているでしょうか。部下に指示する際は、課題解決に向けたあなたの考えや方針と、それを具体化する段取りを明確に話すべきです。つまり納得して動いてもらうのです。得心を経ずに、その都度指示すればいいと考えるのは、思い上がりです。そうした断片的で不親切な指示を続けると、部下は仕事の全体像がつかめず、確認や相談もしづらくなります。部下の心は次第にあなたから離れていきます。
庁外の人々に協力を仰ぐ際は、さらに工夫が必要です。相手を無理やり動かそうと躍起になるのではなく、相手が動きたくなるよう丹念に言葉を選び、最後は「その気にさせる」のです。言葉は人の気持ち、心の琴線に触れるからこそ使う意味があります。熱い思いがあっても、それを独り善がりな言葉にして相手を締め付けないことです。
▽中身を丁寧に整理
では具体的に、どう話せばいいのでしょうか。会話の前に、自分の気持ちや考えと伝えたい中身を、何回も頭の中で整理することです。脳内で何回か言葉を反すうし、次々に言葉を選び直し、修正しながら整理します。これを暮らしの中でいつでも、どこでも実行します。言葉は毎日使いますから、脳内整理の作業を日々の習慣にすれば、そのスピードはおのずと徐々に上がってきます。
言葉選びのプロセスについて、施策の説明など一定のボリュームがある場合で考えてみましょう。伝える言葉は、まず幾つか断片的に頭に浮かびます。次にそれを含むフレーズが頭に浮かんでくるはずです。それらを組み合わせ、伝えたい中身を脳内で1文にします。できるだけ短い文にしましょう。長いと記憶できないし、長文は相手に響かないので効率が悪いのです。文がまとまったら書き出します。すると脳内に思考を再開するゆとりができますから、次に思い浮かぶ単語やフレーズを、同じように脳内で整理します。また文ができたら、それも書き出します。
簡潔な脳内作文を繰り返し、順次書き出すことで、あいまいな観念や発想が整理され、論理的な文章になります。付箋に書いて机やノートに貼り付けてもいいし、スマートフォンに書き込んだり録音したりする人もいます。いつでもどこでも思い付いた時にこの作業をすると、施策に関する思考の整理になります。
言葉は瞬間的に頭に浮かんでも、次の瞬間には消えうせます。ふと思いついた時が、言葉選びの勝負時です。日々の隙間時間を使い、作文を生活の一部にしましょう。思考が常に体系的に整理され、あなたの思いが相手に届いて響くようになります。慣れてくると脳内だけですべての文章がまとまり、公式行事や会議などでも、メモを持たずに話せるようになります。言葉は心を伝える道具であり、道具は磨く習慣が必要です。庁内の雑談でも、言葉を思いつくまま相手に放つのではなく、脳内で言葉を丁寧に紡ぎ、相手の心で輝く文づくりをしましょう。
▽言葉選びの基本

私自身は仕事での言葉遣いとして、図2に挙げた項目を強く意識しています。
話芸で成功した芸能人の多くが、自分の話を録画、録音して確かめるという所作を習慣の一つにしているそうです。表情や話し方の癖、声の高さ、間合いとスピード、発音の明確さ(口の開け方)や文末の聞き取りやすさ(日本語は文末に結論が来る!)などが客観的に分かり、重要な反省材料になると言います。自分の話が相手にどう届いているのか、自分では正確に分かりません。相手の目や耳となり、客観的に自分の声や言葉、口調などを冷静に分析して改良するプロセスは、公務を進める上でとても大事だと思います。私もいつも反省ばかりです。
行政の最新情報や施策を、担当職員が自ら動画などで紹介する時代です。あなたの言葉力、発信力を発揮する機会は増えています。毎日少しずつ、相手に「届いて響く」知恵とワザを身に付けましょう。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。