インタビュー 【トップインタビュー】水産業、今なら再生できる=熊谷雄一・青森県八戸市長 2023/02/22 08:30

太平洋に面する青森県八戸市。全国屈指の水産都市として知られているが、近年の水産資源の減少を受け、つくり育てる漁業への転換を進めている。2021年11月から市政を担う熊谷雄一市長(くまがい・ゆういち=60)は「水産資源は低迷しているが、経営資源や人材、取引先はある。そういうものを生かし、今だったら再生できる」と力を込める。
市の課題を尋ねると真っ先に返ってきた答えが中心市街地の再編と水産業の再生だ。「水産資源の枯渇は全国的な状況だが、特に八戸では基幹産業だったので、ここまで衰退してしまうとどうやって再生させていけばいいか、非常に頭の痛いところだ」と打ち明ける。
昭和から平成にかけ、水揚げ量全国1位に6回輝いたこともある八戸市。1988年の最盛期には水揚げ量は約80万トンに上り、82年の水揚げ金額は約933億円を記録した。しかし、22年の水揚げは主力のイカとサバが不漁で3万トンを割った。「水揚げは最盛期の30分の1という危機的な状況になっている」という。
こうした状況を受け、22年5月、水産業に携わる人だけではなく、金融機関や大学、研究機関、デジタルといった異業種の関係者も参画する「八戸水産アカデミー」を設立した。市の水産業の将来を展望することが目的だ。アカデミーでは一つの方向性としてつくり育てる漁業の推進を掲げており、この専門部会も近々立ち上げることにしている。
「水揚げの復活が一番望ましいが、今はそういうことを待っている状況ではない。(水揚げが)上がることは想定できないので、水揚げがないことを前提とした産業の在り方を考えていかなければならない」と訴える。
年末恒例の十大ニュースでは、22年は1位が老舗百貨店「三春屋」の閉店、2位が商業ビル「チーノ」の閉館と、上位にはいずれも中心市街地の出来事がランクインした。「衝撃的で、ショッキングだった」という三春屋の閉店。東京・築地の市場での勤務経験から魚を見るのが好きだといい、三春屋の食品売り場は「魚を買わなくても見ているだけでも楽しかった。それだけ魚が充実していた」と振り返る。
子どものころは中心市街地に行くことを「まちに行く」と言っていた。高度経済成長期には多くの百貨店や商業施設が中心市街地に林立し、土日は市外からも多くの人が訪れ、買い物を楽しんだ。「まちに行くことが楽しみでしょうがなかった。まちというのはそれだけワクワクするところだった」。ところが近年は郊外に大型ショッピングセンターが進出。商業の中心地ではなくなり、人通りも少なくなった。
そのため市は美術館や屋内スケート場などの文化・スポーツ関連の公共施設を整備し、買い物とは別の目的で人を呼び込む仕掛けをつくった。ただ、最近は近隣にマンションも増えてきており、商業機能が弱くなった中心市街地では買い物に苦労する人も出てきているという。23年度は新たな中心市街地活性化基本計画の策定に取り掛かる。「商工会議所など中心市街地の関係者と連携を図りながら再編につなげていきたい。魅力的で良好な都市環境を総合的に整備していく」と強調した。
〔横顔〕大学時代はバンドでボーカルを担当。カラオケでは野口五郎の「青いリンゴ」を歌う。
〔市の自慢〕北国の割には雪が少ないことが強み。「意外と知られていないかもしれないので強調していきたい」と語る。
(了)
(2023年2月22日iJAMP配信)