2023/令和5年
924日 (

インタビュー 【トップインタビュー】移住促進で社会動態改善へ=牛越徹・長野県大町市長 2023/03/01 08:30

牛越徹・長野県大町市長

 北アルプスの麓に位置する長野県大町市は、人口減少を食い止めようと移住政策に力点を置き、近年では首都圏1都3県との間で転入超過を記録している。昨年7月に5期目を迎えた牛越徹市長(うしこし・とおる=72)は、人口減少について「自然動態だけではブレーキをかけられない。社会動態を改善するため、移住定住を促進している」と語る。

 市は、第5次総合計画の後期基本計画で、年間の出生者数を150人とする目標を掲げる。出産祝い金の支給や小学校入学などに合わせた市内で利用できる商品券の配布など、子育て支援を充実させている。

 一方で、市内の2021年度の死亡者数は386人。出生者数の目標を達成しても、人口減少は食い止められないため、移住者数を増やすことで人口動態を改善したい考えだ。

 市は、移住者向けの奨励金を創設。住宅の新築や購入に助成するほか、移住者が住める公営住宅も整備した。21年度にこうした制度を利用した移住者は92人。20年国勢調査などによると、首都圏1都3県からの転入者数は210人で、149人の転出者数を上回ったという。牛越氏は「地方回帰の流れも見つつ、だいぶ多くの皆さんにこの地域を選んでいただくようになった」と手応えを語る。

 北アルプスから湧き出るミネラル豊富な湧水も、市の魅力の一つだ。21年にはサントリー天然水の工場が完成。雇用創出による移住促進が期待できるほか、工場見学などで観光振興にも貢献しているという。「天然水は持続可能で地域特有の資源だ。コロナ後の強靱(きょうじん)で持続可能な地域社会をつくる上で、地域資源を生かす方向の中で、(さらに)企業誘致にも取り組んでいきたい」と話す。

 市内を走るJR大糸線は、利用者数が減少している。一部区間は、国土交通省の検討会が、存廃見直し協議の対象路線を選定する目安として提示した「輸送密度1000人未満」に該当。牛越氏は検討会の提言について、「地域再生のための在り方を検討するスキームをつくったことはありがたい」としつつ、輸送密度の低い箇所だけを切り離すのは「利便性を損なう危険性がある」とし、鉄道全体の連携に重きを置く。

 市を含む沿線自治体などは振興部会を立ち上げ、利用促進策の検討を進めている。高齢者の免許返納や観光客向けの移動手段の確保など、公共交通の必要性は今後さらに高まるとみており、「利便性をより高め、利用促進につなげる努力をしていきたい」と話した。

 〔市の自慢〕北アルプスの雄大な景観が暮らしの風景に溶け込み、市の主力水源は北アルプスの湧水。「空気も水もおいしい」

 〔横顔〕高校時代には弓道で国体に出場。スキーは1級で、5年ほど前には市民スキー大会の大回転で前走を務めた。

(了)

(2023年3月1日iJAMP配信)

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