インタビュー 【トップインタビュー】軍港移設、足踏み許されず=松本哲治・沖縄県浦添市長 2023/03/08 08:30

沖縄県浦添市の松本哲治市長(まつもと・てつじ=55)は2020年、那覇市の米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市への移設受け入れを決めた。受け入れに反対して初当選したが、「県全体のため、これ以上足踏みは許されない」と判断、立場の変遷は一部で反発を招いた。一方、市街地に約270ヘクタールを占める米軍基地の返還を見据え、跡地整備計画の具体化を急ぐ。
懸案だった軍港移設。日米両政府と県、那覇市は、浦添市の海岸を埋め立て、那覇市から移設する計画を進めていた。松本氏は13年の初当選後、軍港の形状を巡り市独自案への変更を模索したが行き詰まり、20年に現行計画を受け入れ、21年の市長選で3選を果たした。
「もがきはしたが、他に選択肢のない10年だった」。浦添市移設反対を断念した最終的な「苦渋の決断」をこう振り返る。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設では、県が反対する中で工事が強行された経緯がある。「辺野古は県と市が抵抗するが、現状を覆せない。軍港移設を自分1人で止めるのは、辺野古の1000倍難しい」と考えたという。
「オール沖縄」勢力の県政は、故翁長雄志氏から玉城デニー氏にわたり3期目に入った。辺野古移設について、滑走路増などから「新基地」と位置付け反対している。ただ、軍港移設も「現有機能の維持」が前提とはいえ、オール沖縄の反対する「県内移設」に他ならない。県が移設反対で政府と闘う姿勢を見せず推進することに、「浦添市民としてじくじたる思いがずっとあった。辺野古だけに焦点を当て、軍港移設には見て見ぬふりをするオール沖縄はひきょうだ」と主張した。
松本氏は、25年以降の返還で日米が合意した米軍牧港補給地区(キャンプ・キンザー)の跡地利用に重点を置く。那覇市に近く、広大で平たんな上に水平線に沈む夕日が見渡せる。跡地の潜在力には経済界も高い期待を寄せる。那覇空港に近く、人口密集地帯でもあることから、「娯楽の要素だけではないエリアにしたい」と、高級リゾートや国際機関の誘致を構想する。
これまで広大な米軍基地が返還されても、大型商業施設や住宅街が開発されるばかりで、産業の育成に十分つながらなかったとの過去の沖縄の体験が念頭にある。狙うは高所得層。「都市型リゾート」の優位性を確保するには、離島や県北部の典型的なリゾートとの差別化が重要だという。
「これからの時代は働き方が変わり、滞在地を変えながら働く人が増える」。コロナ禍終息後のライフスタイルをこう見据える。シンガポールやハワイ・ワイキキなど国際的な観光地との競争を念頭に、ビジネスとリゾートの融合を目指す。
〔横顔〕米国留学で認知症など「老年学」を学び介護職に。昨年の知事選で保守系候補の選挙母体会長を務めた。自民党員の経験はないという。
〔市の自慢〕「新しい挑戦を拒まない街」。高齢者から始めたコロナワクチン接種を若者優先に転換すると「市民の許容度が高かった」という。
(了)
(2023年3月8日iJAMP配信)