2023/令和5年
531日 (

コラム 【変わり始めた公務組織2】民間人材の採用と定着 2023/04/01 00:00

人事院給与局給与第一課長 植村隆生

人事院給与局給与第一課長 植村隆生氏

 公務の現場では、民間企業で働いた経験のある職員が年々増えています。民間から採用されたいわゆる中途や任期付き、非常勤の職員です。官民交流により民間から役所に派遣されたり、逆に役所から民間に出向したりする経験を持つ職員もいます。最近は、役所を辞めて民間で働いた後、再び役所に戻るケースもあります。このように官民の垣根が低くなり、多様なバックグラウンドを持つ人材が増えることは、組織の活性化にもつながります。

 今回は「民間人材の採用円滑化」をテーマに、変わり始めた公務職場の現状と課題を紹介します。

 なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆者が所属する機関の見解を代表するものではありません。

◇優秀な人材は獲得競争

 わが国の公務員の人事管理は、伝統的に新規学卒者の一括採用とジョブローテーションによる計画的な育成が基本でした。一方、近年は若い世代の就業意識が変化(キャリア志向、スペシャリスト志向、やりがい重視、他律的労働の忌避、地元志向など)してきました。社会貢献を志す学生であっても、コンサルタント会社や商社など民間と行政との間で、優秀な人材の獲得競争は厳しさを増しています。さらに、各府省が膨大なエネルギーを注いで雇い入れた職員の早期離職も、総合職や一般職を問わず増加傾向にあります。

 その結果、これまでの「新卒中心主義」一辺倒では、各府省の業務を中核的に担う優秀な職員(ゼネラリスト)の絶対数が不足するようになっています。こうした状況もあり、各府省は優秀な人材を求めて、冒頭に紹介したように中途採用などを急速に拡大させているのです。経済産業省のように「2030年までに、年間採用者のうち、キャリア採用(中途採用)の水準を3割程度確保する」ことを人材戦略上の重要業績評価指標(KPI)に掲げる府省も現れています。

 一方、デジタルや金融など、急速に発展したり高い専門性を必要としたりする分野に行政が迅速かつ的確に対応するには、専門的な知識や技術、経験を持った即戦力となる人材(スペシャリスト)が求められます。デジタル庁や金融庁をはじめ多くの府省では、任期付き職員や非常勤職員としてIT分野などの専門人材を民間などから大量に受け入れています。

◇円滑に進めるために

 こうした民間人材へのニーズの高まりに対応し、人事制度を所掌する人事院は、内閣人事局やデジタル庁と連携して民間人材を受け入れる手続きの柔軟化や事務の合理化、給与の決定や支給の手続きの柔軟化、各府省人事担当者のサポート体制の充実といった取り組みを、ここ1~2年でスピーディーに進めてきました。

 22年12月21日のデジタル臨時行政調査会で、川本裕子人事院総裁が進捗(しんちょく)状況を報告しました。これに対し河野太郎デジタル相は「人事院に措置していただいた採用の円滑化を先行的に活用して特定任期付き職員を迅速に採用することができている」と感謝。さらに「今後は、超高度人材の方々のスペック、処遇などの条件、DXを前提としたマネジメントを担える行政官を確保するための処遇の在り方、リモートワークに適した手当の在り方といったデジタル人材を確保するためのさらなる課題も検討し、人事院、内閣人事局とよく相談をして進めてまいりたい」と前向きな姿勢を見せました。

 また、岸田文雄首相は「民間人材の円滑な採用…に向け、デジタル庁、人事院、内閣人事局の連携により改革を進めるとともに、デジタル庁を先頭に霞が関全体で民間人材の積極的な活用を図ってまいります」と発言しています。

◇オンボーディング

 他方、このような急速な職場環境の変化に対して現場に戸惑いもあります。同質性の高い公務職場で長年働いてきた職員にとって、バックグラウンドの違う方々への「お手並み拝見意識」もあり、職場での信頼関係の構築には時間がかかります。サポートも不足しがちで、すべての民間人材が即戦力として最初から能力を存分に発揮できるわけではありません。

 新入社員や中途採用者など新しく組織に加わった人間が直面する課題を克服して円滑に適応するようにサポートする取り組みを、オンボーディング(職場適応支援)と呼びます。この分野の専門家の中には「オンボーディング施策を実施できないのであれば,中途採用はやめるべきだ」とまで述べる方もいます。

 前述のデジタル臨調では、川本総裁が「採用方法やバックグラウンドにかかわらず、職員一人一人が活躍でき、その働きぶりがフェアに評価される環境づくりを推進していただけるように(各府省に)お願いしたい」と促しました。人事院も、各府省が迎え入れた民間人材が早期に公務になじみ能力を発揮できるよう、オンボーディングに係る研修の拡充や研修教材の充実などの取り組みを進めています。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任し、現在は給与局給与第一課長。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【変わり始めた公務組織】

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