2023/令和5年
924日 (

インタビュー 【トップインタビュー】オーバーツーリズム解決を=松尾崇・神奈川県鎌倉市長 2023/04/05 08:30

松尾崇・神奈川県鎌倉市長

 鎌倉時代の社寺などが多く残り、新型コロナウイルス感染拡大前には年間延べ1900万人が訪れた神奈川県鎌倉市は、観光関連業が地域経済を支える一方、観光客が来すぎることにより地元住民が交通渋滞などに悩む「オーバーツーリズム」が長年の課題だ。コロナが猛威を振るった約3年間からコロナ後を迎え、市民の生活環境を改善するカギは「時間・時期・場所」の三つの分散化という。松尾崇市長(まつお・たかし=49)は「観光客に来てほしくないと言うつもりは全くない。多くの人に、鎌倉の歴史的遺産を見てほしい」と強調する。

 コロナ感染拡大が始まった当初、「防災無線を使って、『鎌倉に来ていただいている方は、なるべく早くお帰りください』と呼び掛けざるを得なかった。どのようにすれば市への観光を自粛してもらえるかと大変苦慮した」と振り返る。観光客数は2020年が738万人、21年が657万人に落ち込んだ。その半面、「市民からは『観光客が全然来なくて快適だ』という声を多く頂いた」と、有名観光地ならではの事情を語る。

 観光誘客と、市民生活への影響緩和を両立させようと進めるのが三つの分散化。例えば、場所の分散化では鶴岡八幡宮や江ノ電、大仏といったメジャーな場所に集中しがちだった観光客を地元観光ガイドと連携し、二階堂や十二所といった、わざわざ足を延ばさなければ行けないエリアへの誘導に尽力した。その結果、「大江稲荷、大刀洗、切通といった人があまり積極的に足を運ばなかった場所に、多くの人に来ていただいている」。鎌倉幕府を題材にしたNHK大河ドラマが昨年放映されたことも分散化を後押ししているという。市内には宿泊施設が増えており、朝の海辺の散策を楽しんでもらうといった時間の分散化も進める。

 社寺などを次世代に継承しようと、かつては県などと協力し、ユネスコの世界遺産登録を目指したが、ユネスコの諮問機関は13年、物証不足などを理由に不登録を勧告した。昨年は、登録されている日本遺産でも条件付きで継続となるなど難局を経験した。「(登録は)鎌倉のまちを守るツールとして重要。息の長い取り組みをする」と語る。

 鎌倉幕府が置かれていた市の中心部にある市本庁舎は、老朽化が進む。震度6強以上の地震で倒壊する危険性は低いものの、業務を継続できるほどの耐震性がないため、別の場所への移転を計画している。ただ、市庁舎の位置条例の改正案は昨年末、賛成16、反対10と市議会の3分の2以上の同意が必要な特別議決に2票足りず否決。「庁内での検討過程が市民に十分伝わっておらず、誤解を持って受け止められてしまった」と反省する。

 反対意見の中には、市役所よりも「学校の老朽化に早急に対応して」「津波避難タワーや防潮堤を造って」という提案型の声も多く「反対の裏にある思いは災害への不安や心配」とみる。これらの提案の実現に向けて検討しながら、条例改正案の可決まであと一歩の説明を重ねる。

 〔横顔〕鎌倉市議、神奈川県議を経て、09年に市長に初当選し現在4期目。家族は妻、娘3人。半日ほど休みが取れると「買い出しのドライバーとして付き合わされる」という。

 〔市の自慢〕多様性が尊重され、誰もが安心して自分らしく暮らせるように市の責務などを定めた「鎌倉市共生社会の実現を目指す条例」を2019年施行。

(了)

(2023年4月5日iJAMP配信)

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