コラム 【シティプロモーション再考3】意識するのは内か外か 2023/04/14 11:00

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔
前回はシティプロモーションに関する条例の有無を確認しました。総合計画、総合戦略などへの「シティプロモーション」という言葉の明記の有無も紹介しています。今回も幾つかトピックスを挙げます。
▽進捗管理の目的化を避ける
「シティプロモーション自治体等連絡協議会」のアンケート調査で、シティプロモーションに特化した行政計画(指針や方針、戦略など)の有無を調べました。
結果は図表1の通りです。シティプロモーションに特化した行政計画の策定は157市町村(36.9%)。一方で作っていないのは268市町村(63.1%)でした。

前回示したように、総合計画や総合戦略では263市町村(61.7%)でシティプロモーションに関する項目がありました。これと、シティプロモーションに特化した行政計画の策定状況を比べると、両者に乖離(かいり)が見られました。
市町村はシティプロモーションをやる気があるのかないのか、私には分かりません。私見ですが「シティプロモーションがブームだし、住民ウケがよさそうだから総合計画に明記しておこう」という市町村が一定数ある気がします。
読者に考えてほしいことがあります。それは「シティプロモーションを進める際、特化した行政計画があったほうがよいか」です。私は正しい回答を持っていませんが、以下は問題提起の意味を込めて言及します。
私はあったほうがよいという立場です。理由は、まさに「計画的」に進められるからです。しかし、自治体「あるある」ですが、行政計画を策定すると、その進捗(しんちょく)管理に重きが置かれる傾向があります。そして気が付くと「進捗管理が目的化」してしまいます。その意義は分かりますが、毎年実施する必要はありません。3年に1回か5年に1回でよいでしょう。なぜなら、成果が導出されるのに最低でも数年かかるからです。
シティプロモーションの一つの意義として、民間の思想(プロモーション)を自治体に入れることができればイノベーションを起こせると、私は理解しています。ところが、シティプロモーションが行政計画に位置付けられると、本来備えていたダイナミックの要素が矮小(わいしょう)化されていきます。理由は「シティプロモーションを展開する」からではなく「シティプロモーションの進捗管理が中心業務となる」からです。
読者から「では、どうしたらいいのか」と聞かれても、妙案はありません。私ができるのは、シティプロモーションに特化した行政計画を策定し、進捗管理の目的化を避けるようにチェックするのみです。
近年のシティプロモーションの行政計画は紋切り型で、どの市町村も内容は同じです。実際、シティプロモーションの行政計画が「ある」と回答した事例は、恐ろしいほどに多くが同じ中身です。
シティプロモーションに重要な一つの要素は「差別化」です。ところが実態は「模倣化」がまん延しています。同じ土俵での競争になるため、この状態では体力の強い市町村が勝ち残ることになります。「市町村」と書きましたが、実際は規模の大きい政令指定都市や中核市、県庁所在市のみが勝利します。
紋切り型のシティプロモーションは「飛んで火に入る夏の虫」に近いかもしれません。
▽外に向けすぎの視線
図表2は、地元住民対象にシティプロモーションに関するシンポジウムなどの実施の有無の確認です。128市町村(30.1%)が開いており、297市町村(69.9%)は実施したことがありませんでした。

一方、図表3は地元住民ではなく、市町村外の住民を対象に移住定住に関するPRイベント・相談会の開催の有無を尋ねた結果です。実施したことがあるのが287市町村(67.5%)であり、そうではないのは138市町村(32.5%)でした。

図表2と図表3だけで結論付けるのは危険ですが、あえて言及すると、多くのシティプロモーションは現在生活している地元住民をないがしろにし、視線を「外」に向けすぎる傾向が強いかもしれません。
定住人口の維持は、社会増の観点で考えると、転入促進と転出阻止しかありません。近年のシティプロモーションは、転入促進ばかりに力点が置かれているように感じます。私はこれをアウタープロモーションと呼んでいます。その一つの証左が図表3です。
確かにPRイベント・相談会も重要ですが、今いる地元住民にもシティプロモーション(私はインナープロモーションと呼びます)し、市町村への理解促進、信頼醸成を進めることが大事です。シビックプライドの醸成とも言えます。そうすれば、地元住民の転出は防げるかもしれません。
たとえ進学などで転出してもUターンで戻って来てくれるでしょう。シビックプライドが高い市町村はUターンも高い相関関係があります。ところが図表2を見てください。地元住民にシティプロモーションの理解促進、信頼醸成をあまり実施していない状況が明らかとなりました。
♢クチコミの効果
マーケティンングには「ウィンザー効果」(Windsor Effect)という概念があります。定義は「第三者(他者)を介した情報、うわさ話の方が、当事者が直接伝えるよりも影響が大きくなる心理効果」です。
市町村が取り組むシティプロモーションを地元住民に理解してもらい、改めてファンになってもらうことが重要です。ファンになった人々がウィンザー効果を発揮してくれるのです。地元住民が市町村外の友人に「自分の暮らしている自治体は、とてもいいよ」と宣伝してくれます。
ウィンザー効果は「クチコミ効果」の一つとして注目されています。ちなみに、語源はミステリー小説の中の言葉に由来しているそうです。米国の作家アーリーン・ロマノネスの「伯爵夫人はスパイ」に登場するウィンザー夫人が「第三者の褒め言葉が、どんなときにも一番効果があるのよ、忘れないでね」と言ったことから、この夫人の名前にちなんだとされています。(了)
- ◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
- 法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授、23年4月に同教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。