コラム 【職場が輝く知恵とワザ3】職場経営の学び方 2023/05/11 11:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽仕事の意味を共有する
膨大な公務のどれにも、一つ一つ社会的意味があります。部下を持つ身として、業務の意義や、今進めている施策・事業がなぜ必要なのかを、部下と共有できているかどうかが重要です。その上で時代の要請に合わせ、それらをどうやって今より良いものにするか? 既存の事業を前例踏襲で続けるのは楽ですが、リーダーとしては「思考の停止」です。事務事業の目的に則した見直しと改善は、What?(何をしている)より、Why?(なぜしている)から始まります。
地域事情の変化やICT(情報通信技術)社会の進展、人々の価値観の変化を素早く捉え、行政が住民感覚と乖離(かいり)しないよう、リーダーや管理職は常に疑問符を持って業務を見つめる姿勢が必要です。その疑問を、どんなことでもいいので時折部下に問いかけ、一緒に考えてもらいましょう。自由に意見を語らせればいいのです。新規事業や業務改善は、あなたが一人でリードする必要はなく、部下に自由に立案してもらうのです。それに助言し、形にするのが上司の仕事。部下にとってリーダー、管理職になるための訓練になります。
▽若手にさせてみる
主幹や係長は非常に忙しいポストです。私が入庁した昭和の終わりごろ、主幹・係長といえば、チーム全体の統括と施策の調整、議会答弁案の作成などが主な仕事でした。ところが今はそれに加え、多くの自治体で、新計画案の作成や広域連携、法令審査、働き方改革などが、主幹・係長の直接担当する業務に組み込まれています。だからいつも時間にゆとりがなく、どうしても残業になりやすい。大事なのは、リーダーとしての部下への目配りを、きちんと言葉で示す習慣です。新規採用者や若手への指導が主任や主査から的確になされているか、部下が懸案を一人で抱え込んでいないか、各人の健康状態(顔色など)はどうか…。部下はいつもそばにいるから言葉は要らないと思うのは間違いです。時に多弁でも、気配りをしている事実を言葉で部下に伝え、会話することです。
自分の仕事が立て込んでくると、ついパソコンをのぞき込む時間が増え、部下との会話が減ります。さらに追い詰められるとあなたも部下も全員、黙々とただパソコンを打ち続ける状況となります。これは警戒すべきです。日ごろから部下に余計な作業をさせない、命じないことが第一ですが、自分の作業をたまには部下にさせてみるのもいいでしょう。私も若手のころ、上司が非常に多忙で出張も多かったので、議会や委員会の答弁案などを随分と書かされましたが、非常に勉強になりました。幹部の重要な仕事の一部をうまく選び、若手に振ってみる。若手も、幹部のスケール感を学べるチャンスです。その仕事は何が目的で、どんな効果を目指し、何をしようとしているかを、分かりやすい言葉で伝えましょう。仕事の意味と目的を理解すれば、若手の士気は上がります。
▽タイムマネジメント
職務に熱心な主幹や課長などの中には、早朝に出勤する人も多いようです。立派な習慣ですが、部下としてはそれなりに気を使います。時差出勤やフレックスタイム制が導入されていない場合、注意すべきことがあります。
労働法の関係制度も含め、組織には組織の守るべき基本的な勤務ルールがあります。ですから早く出勤したリーダーや管理職は緊急時を除き、早く出勤した部下に、始業時刻前に指示を出すべきではありません。部下は仕事の勉強や準備をするつもりで早朝出勤をしており、それは自ら作り出した部下自身の時間です。ですから非常事態でない限り、自分の段取りで早朝出勤した部下を、つかまえてオーダーを出すべきではないのです。それなら部下に時間外勤務命令を出し、手当も支払うべきです。タイムマネジメントに、働き方改革の本質があります。
職場勤務の基本的なルールをリーダーが自ら壊していくと、組織の勤務体系が狂い、いずれは部下の精神的疲弊を招きます。優れた経営幹部は、組織のルールを守りながら最大の効果を上げられる人だと思います。
私のかつての上司で、今でも尊敬している人がいます。その方は仕事の時間管理、特に施策・事業のスケジュール管理にはとても厳しい人でしたが、昼休みや早朝など、勤務時間外には決して部下に指示・命令をしませんでした。さらに、指示や命令を出すタイミングも心得ていました。ですから皆で残業をしている時も、指示・命令はありませんでした。あくまで勤務時間の中で、しかも適時にオーダーする姿勢です。その代わり部下が無計画に漫然と時間外で勤務することを嫌いました。高い職業意識の一つでしょう。私もリーダーになってからは、できるだけそのようにしてきました。ただ夜間残業中の部下に、くだらない冗談や受けないギャグばかり飛ばしていたので、とても迷惑だったと思います。申し訳ないことでした。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。